「よ、まった?」 約束の時計台の前で二人は落ち合う。ちょうど12時を知らせる鐘が鳴った。 「べ、別に」 ふんとあらぬ方向を向くティエリア。だがいつになくかわいいワンピース系の服装に、髪を結い上げてリボンで綺麗にアクセントをつけている。 すれ違う人が、ティエリアの姿を見ては振り返る。どこぞのアイドルか?などという言葉まで聞こえたきた。 「は、早くいきましょう。さっきからじろじろ人が見てきて、不快だ」 それは、ティエリアがもつ容姿ゆえのものなのだろうが。 適当な格好をしていても一目を引くのに、少女らしいティーンズファッションでまとめあげて、少しお洒落をすればアイドルのように見えなくもなく。 服装一つで、こうまで人の雰囲気は変わるものなのかと、ニールは楽しそうに心の中で感嘆した。 「似合ってるよ。その服」 「あ、ありがとう・・・」 もじもじした様子で、小さな声が返ってくる。 ニールはティエリアの手をとって歩きだした。 「ちょ!」 「映画見に行こうぜ。チケットとってあるんだ。もうすぐ始まる」 「な、いきなりか!」 ティエリアの言葉も聞かないで、ニールが誘導していく。 ニールの手をはたいてから、ティエリアはとことこと、ニールの横に並び映画館に向かって歩いていった。そして2時間ばかりのラブストーリーを見終わってカフェに入った。 「うう、グス・・・・」 「なんであなたが泣くんですか」 「だって、パトラッシュが!!」 一体どんな映画を見たんだお前ら。そうつっこみたくなる。 「ううう。パトラッシュ、いい子だったのに!!」 涙をハンカチでふくアイリッシュ系の男性に、店内の視線が集まる。あまりの恥ずかしさに、ティエリアは耳まで真っ赤になっていた。 初めて異性とデートしたのはいいが、なぜ連れの男がデートで、映画を鑑賞してそのストーリーで泣くのだ。普通立場が逆じゃないのか? 「も、もう泣き止んでください。チョコレートパフェおごってあげるから」 「おう・・・チョコレートパフェ2つくださーい」 泣き止んだニールは、アルバイトであろうメイドの人にチョコレートパフェを2つ頼んだ。 「何故2つ・・・」 「無論、ティエリアの分。お金は全部俺が出すって。無理すんなよ」 「う。まぁそういうことなら」 バイトはしていないので、小遣いはあるが無駄遣いできるほどはもっていないティエリア。洋服は別途でお金をもらっている。だから、小遣いは純粋に娯楽費用に費やしていた。チョコレートパフェって意外と高いな・・・・そんなことをティエリアは思う。 それからチョコレートパフェを食べて、適当に会話しながら公園を散歩して、ティエリアが新作のゲームが見たいとゲーム店に入って出る頃には、もう日が傾きかけていた。 「今日は楽しかった。思ったより」 ティエリアは、地面をじっと睨んでいた。 「それは何よりだ。またデートしようぜ」 「ふん」 あらぬ方角をむいたティエリアの顎に、ニールの長い指が絡まった。 「ん?」 触れるだけの優しいキス。 「な、ななななな!!!」 「ごちそーさん。また明日学校でな。それから俺と付き合うの、真剣に考えといて。俺本気だから」 「な、なななな!ば、万死ーーー!!!」 はははと走り去っていくニールの後を睨みつけて、ティエリアは顔を真っ赤にして震えていた。 ニールに振り回されている自分が、嫌でないのに違和感を覚えつつも、彼と付き合うのもありかと頭のどこかで冷静に考える。 教師と生徒というタブーはあるが、2ヶ月もすればニールは教師ではなくなる。そのあたりはあまり問題はないと思う。 「万死・・・なんだから」 キスされた唇を指でなぞって、夕焼けの紫に染まりゆく空を見上げた。 出会いは本当に突然に。そしてデートまでしてしまった。学校でも毎日のように会話して、一緒にお昼までとっているし、休日には家にまで遊びにくるニール。 「人を好きになれるのかな?」 夕焼け雲を見ながら、ティエリアは寂しそうに呟く。かつて、ティエリアには好きな人がいた。従兄弟で、自分とよく似た容姿をしていた少年だった。幼い頃は将来結婚するんだとまで約束しあった。 「ねぇ、リジェネ。どう思う?」 リジェネは、ティエリアを庇って死んでしまった。交通事故だった。好きになってしまったばかりに、彼を、愛した人を殺してしまった。 今から5年前のことだ。それほど昔のことではない。 もう、誰も愛する資格などないのだとずっと決め込んでいた。 刹那やアレルヤのことは好きだけど、友人として家族としてだ。 異性としての恋愛など、もうすることもないだろうと思っていた。 「リジェネ、君は笑うかい。あんな人に、心惹かれていく僕を」 リジェネが優しく微笑み返している気が、した。 NEXT |