「よ、ティエリア、おはよう。昨日のデート楽しかったぜ。今日もかわいいな」 刹那は変わらず不明な言葉を叫んでいる。 とりあえず、刹那を引き摺って、その場から逃げるようにティエリアは視聴覚室に入る。 昼になって、屋上で昼食をとっていると、いつものようにニールが混ざってきた。 ドクドクと、早鐘の如くティエリアの心臓は脈打っている。 なんだろう、この感情は。気恥ずかしくて、ニールのほうをまともに見れない。 「お、エビフライげーっと」 ティエリアのお弁当箱から勝手にエビフライを拝借していったニールに、ティエリアは文句も言わない。 「あなたのせいだ!!」 急に立ち上がると、弁当箱を床において、びしっと指をつきつけるティエリア。 「へ?」 「あなたのせいで僕は病気になった!どうしてくれる!!」 「病気って・・・どんな?」 「あなたの声を聞くと、ドキドキする。顔を見ると頬が、体中が火照るように熱くなる。笑顔を見ると胸が苦しい!これは・・・・うう、病院に行かないと」 ニールはにんまりと笑って、ティエリアの手を握る。 「バーカ。それは恋だよ」 「鯉か!?錦鯉か!?」 「違うって。恋したことないのか。じゃあ初恋か?お前さんは、俺に恋しちまったんだよ」 「錦鯉してしまったのか!!」 「ま、まぁなんか違うけど似たようなものだ」 「責任をとれ!!」 びしい! 指をつきつけたティエリア。刹那は腹を抱えて声もなく笑っている。 「いいぜ。付き合おう。本気で、な」 「え?」 ふわりと、ティエリアの体が宙に浮いた。ニールはティエリアを横抱きにすると、あろうことか屋上でティエリアにキスをした。 「万死・・・・」 いつもなら、威勢のいい声とビンタが飛んでくるはずだった。でも、ティエリアは顔を手で覆って動かなくなった。 「あれ?」 「死ぬほど恥ずかしい」 ぽつりと漏れたティエリアの声に、ニールは苦笑するのだった。 脳裏に、幼い頃のリジェネの顔が過ぎる。リジェネがずっと好きだった。でも、一緒にいてドキドキとか体が熱くなったりとか、そんなことを経験したことはない。 リジェネを愛している。今でも。 でも、こんな激しい感情は今まで抱いたことがない。 幼馴染のように育ったリジェネに抱いた感情は、そう、例えるなら半身が側にいるような。 「リジェネ・・・」 「何か言ったか?」 「ううん、なんでもない」 交通事故にあいそうになったティエリアを庇って、ティエリアを突き飛ばしてそしてトラックにはねられて、他界してしまったリジェネの最期の言葉を思い出す。 「君だけでも、幸せに――」 僕だけ幸せになる権利なんてない。リジェネの人生を奪っておきながら。でも、葛藤する。誰も愛する権利などないと思っていた自分の心に切り込んでくるように、浸入してくる柔らかな暖かさをもった、ニール。 「僕は誰かを愛しても、いいですか?僕は、あなたを愛しても、いいですか?」 ティエリアは、涙を流しながらニールの翠の目をのぞきこんで、そのまま気を失った。 NEXT |