ティエリアは大分やつれてしまった。 食欲もめっきりおち、睡眠時間も減った。 それでも、比翼の鳥のように刹那の傍にずっといた。 「刹那。君は言ったよね。必ず生き残るって。こんな形で生き残っても、意味はないんだよ?」 刹那の手を握っていた。 暖かい。 刹那は生きている。 けれど、死んでいるのも同じだ。 ずっと目覚めないのであれば。 ティエリアは、いつの間にか夢を見ていた。 どこかであったことのある少女が立っていた。 場所は、公園だった。 キーコキコーコと、ブランコをこぎながら、少女はティエリアをじっとエメラルド色の瞳で見つめていた。 顔立ちがティエリアに似ている。 ティエリアも、少女の横でブランコをこぎだした。 キーコキーコ。 ぶらんこをこぐ音だけが聞こえる。 公園には、ブランコ以外何もなくて、滑り台さえない。 少女が、ブランコをこいだまま、隣のティエリアをじっと見つめる。 「あなたの遥か未来は定まっている。けれど、この選択を選ぶのもあなた次第。あなたは生きなければならない。あなたの愛した人がそれを望んでいるから」 「僕は、このまま刹那が目覚めなかったら死ぬよ」 「それは定められた未来とは違うわ。たとえ選択肢を違えても、あなたには生きるべき義務があるの。あなたが愛した人が、あなたを愛する人がそれを望んでいるから」 「誰が?」 「ロックオン」 「!!」 少女の姿が消えた。 変わりに、ブランコをこいでいたのはロックオンだった。 「ロックオン!」 ティエリアが、ぶらんこを降りて、ロックオンに抱きついた。泣きじゃくる。 「相変わらず泣き虫だなぁ」 「だって、だって、刹那が!!」 「心配すんなって。刹那はちゃんと目覚める」 「本当に?」 「ああ。俺が嘘なんてつくと思うか?」 「いいえ」 「墓参りにきてくれてありがとな。すっげー嬉しかった。俺に聞かせた「ロストエデン」って唄を刹那に聞かせてごらん。きっと、奇跡がおこるから」 「あなたは、怒らないのですか。刹那を愛してしまった僕を。ライルと刹那と関係を持ってしまった僕を」 「なんで?俺はもうとっくの昔に死んでるんだぜ?それに、未来はティエリアの自由だ。俺は安心してるんだ。もう誰も愛さないって言ってたお前が、刹那を愛している。それに、ティエリアはまだ俺を愛してくれているんだろう?」 「誰よりも、あなたを愛しています。刹那よりも、あなたを」 「はは、照れるな。俺も愛しているよ、ティエリア」 ティエリアを抱きしめて、ロックオンは空気に溶けた。 「ロックオン!」 キーコキーコ。 またブランコがこがれる。ロックオンの変わりに、少女がブランコをこいでいた。 「道は示された。後は、あなた次第・・・・」 「君は」 バサリと、少女の背中に六枚の翼が現れた。 「・・・・天使?」 「地上の天使。あなたのほうこそ、天使にふさわしいわ」 少女が、ティエリアを抱きしめる。 少女の背後に、絶世の美女が現れた。 「セラヴィ。その人間に干渉するのはもう少し未来の話でしょう」 「いいえ、ジブリール。人は、いくつもの選択肢をもち、いくつもの物語を持っている。そのうちの一つが、いま道を開けた」 「全く、そなたの人間に対する執着ぶりは見ていて呆れてしまう」 「うふふ。私は、人間が大好き」 「そうであろうな」 絶世の美女の背中にも、輝く六枚の翼があった。 「さぁ、目覚めて。そして、運命を自分の手で掴んで」 少女が、絶世の美女と並び、大空へと飛んでいく。 ふわりふわりと、いくつもの白い羽が舞い落ちた。 「セラフィム・・・・六枚の翼をもつ、天使の最上階級」 ティエリアは、空を羽ばたく二人の天使を呆然と眺めていた。 そこで、ティエリアの夢は途切れた。 「ん・・・・・・」 目を開けると、刹那の病室だった。 刹那は、変わらず昏々と眠っている。 ティエリアは、さっき見ていた夢のほとんどを忘れていた。 ただ、「ロストエデン」という唄を歌えば奇跡がおこるという言葉だけ覚えていた。 NEXT |