ライルが、驚いたように顔をあげる。 「まるで、聖母マリアみたいだな」 ティエリアは愛しているといってくれたが、それは全てを包み込むような慈悲深い愛だ。 恋愛感情の愛ではないことくらい、ライルはすぐに分かった。 「あなたを選べば、なんの辛い思いもせずにすんだ。未来への不安を抱かずにも済んだ」 「でも、ティエリアは刹那を選んだんだろう?だったら、そのまま突き進め。障害があっても取り除いて突き進め。刹那を信じろ」 「ライル」 触れるだけのキスをかわす。 ライルのエメラルドの瞳が、はじめて涙を零した。 「はは、大の男が情けないな」 我慢していた分が、堰を切ってあふれ出す。 心がどうしても苦しくて苦しくて仕方ない。 ティエリアの幸福を望んでいるのに、その隣に自分はいない。 ティエリアの隣にいることを誰よりも望んでいるのに。 ティエリアの隣にいるのはいつも刹那だ。 刹那からティエリアを奪うこともできない。 何故なら、ティエリアが悲しむから。 愛しい人を悲しませたくない。 ただ、愛しているんだ。 幸せになってほしい。 愛されなくていい。 ただ愛したい。 「愛している、ティエリア」 「あなたは僕に罪を背負わせる」 「どんな形でもいい。俺を見てくれるなら」 「あなたの傍にずっといることはできません。僕は、刹那を選んだから。でも、もっとあなたの傍にいます」 「ありがとう」 まるで、聖母マリア。 美しく、気高く、そして慈悲深い。 ライルとティエリアは涙を零して、互いの体温を確かめるように抱きしめあった。 なんて不器用なのだろうか。 刹那とティエリアは愛の形をとらずに、擬似恋愛をして比翼の鳥としてお互いがなくてはならないほどに大切にしあい、寄り添いあう。 一方で、ライルは愛されないと分かっていながらもひたむきなまでにまっぐすにティエリアだけを愛して、二人の関係を壊すことなく、自己犠牲をして、ロックオンを愛したまま刹那を愛するティエリアを愛する。 三人の関係は、きっと理解されないだろう。 螺旋する感情。 愛の、絡み合う三重の感情がオルゴールのような音色を奏でる。 愛し、愛され、一方では愛されず、けれど愛す。 愛いう感情は、どこまで奥深いのだろうか。 人は、どうしてこんな感情を持ってしまったのだろうか。 その果てにあるものが悲しみと苦しみであると分かっているのに。 一時の幸福と安らぎと癒しを求める。 なんて皮肉なんだろう。 「刹那が起きたとき、ここにいるのがばれるといけないので、戻りますね」 「ああ、体調に気をつけろよ」 「はい。ライル、好きです」 「俺も好きだよ」 ティエリアは、独房から離れ、刹那の部屋に戻った。 刹那はまだ眠っていた。 起さないようにベッドにもぐりこむ。 すると、刹那が起きてしまった。 「どこかに、行っていたのか」 「それは」 「いい。追求はしない」 「ありがとう」 刹那の手が、白い雪のようなティエリアの頬を優しく撫でる。 「もう大丈夫か?」 「熱が下がったので、大分楽だ」 「そうか、良かった」 「刹那」 「どうした?」 「愛しているよ」 「俺も、ティエリアを愛している」 やがて、体調が万全になったティエリアは、刹那の手からすり抜けるように、時折ライルの部屋で泊まった。刹那はそれを止めたかったようだが、ティエリアの強い願いに刹那も折れた。 大切な相手がそう望むのであれば、仕方ない。 ライルは、変わらずにティエリアに愛を囁く。 ティエリアはそれを受け入れながらも、恋愛感情の愛をライルには抱かず、ただ包み込む。 刹那とティエリアは、相変わらずその関係にあまり愛という言葉を用いずに、比翼の鳥として存在した。 螺旋する感情。 愛の、絡み合う三重の感情がオルゴールのような音色を奏でる。 とても複雑で、綺麗な音色を。 螺旋する感情 The End Presented by Masaya Touha ------------------------------------------------------------------------------------- 刹ティエでライティエ。複雑な三角関係。 ティエリアは刹那を選びながらも、ライルも癒す。 ライルは愛されないとわかっていながらも、ただティエリアを愛する。 うちのとこのライルは哀れですな。 他サイトさんのライルは腹黒い存在が多いです。 実は、そんなライルになりかけていたのですが、途中で修正しました。 やっぱり、微妙な三角関係を続けてください。 ライルが憎まれるのは悲しいので、良いライルにしてみました。 |