いつものように、バーチャル装置に入る。 ロックオンも入り、装置を連結させた。 仮想世界にダイブする。 今日も、バーチャルエンジェルは、背に六枚の翼を羽ばたかせ、地上に舞い降りた。地面につくと、六枚の翼は光の雫となって消えうせた。 (おはようございます、マスター。今日もAIマリアをご利用くださ・・・・ガーピピピ) 「お、なんだ?」 デュナメスに早速の乗り込んだロックオンが、バーチャル装置に備わっていたAIマリアの澄んだ綺麗なソプララノの声にノイズがまじっているのに気づいて、首を傾げる。 「AIマリア?」 マスターとして登録されているティエリアもどうしたのだと表情を険しくさせる。 (AIマリアをご利用くださり、ありがとうございます) いつもの綺麗なAIマリアの声が聞こえてきて、二人とも安堵する。 アラームが鳴った。 今度こそ、ただごとではないと、ガンダムに乗ったままの二人がコックピットから降りる。 景色は地上から一転して、周り一面氷の湖になった。頭上を見れば、オーロラが輝いている。アラスカあたりの風景に、心奪われつつもティエリアはAIマリアに声をかける。 「AIマリア、どうかしたのか。システムの不調か?」 (AIマリアは、AIマリアは、AIマリアは、AIマリアは・・・ジジジ・・・ガガガピー」 「AIマリア?」 アラームがまたなった。 (通達、通達。システムに異常が発生しました。AIマリアを使用中の方は、今すぐ現実世界にお戻りください。 このまま仮想世界にダイブしていると、脳に影響を及ぼすおそれがあります。今すぐ、現実世界にお戻りください) 「ロックオン、戻ろう」 「ああ」 二人は頷きあった。 アラームで緊急メッセージを送ってきたのは、AIマリアではない。 装置についているサブシステムの合成音声だ。 二人は、現実世界に戻った。 そして、悲鳴をあげた。 「うわああぁぁ!なんで僕が目の前に!」 「なんで俺が目の前に!」 二人して、お互いの体を触りあう。 「まじかよぉ!」 ロックオンが、美しい顔でまぬけ面になり、がに股になった。 「まさかこんなことにあるなんて。AIマリアを直す前に、元に戻るのが先決です!ロックオン、もう一回仮想世界にダイブしま・・・・・」 ロックオンは聞いていなかった。 ロックオンとティエリアは、その精神を仮想世界にダイブし、そして装置の故障により精神が入れ替わってしまった。普通なら、そんなことおきりはずがないだろうと笑い飛ばすところであるが、バーチャル装置に入る時は精神そのものを装置に預けることになるので、100%起こりえないともいえなかった。 しかし、まさかこんなことが起こるなんて。 ロックオンはティエリアの体になっていた。 ティエリアの体を自分の腕で抱きしめている。眼鏡をとったかと思うと、目を金色に輝かせたり、肩まである髪をかきあげたり、意味不明なポーズをとったり、しまいには投げキッスをしだした。 全くもって、現状を楽しんでいた。 「すげーな。ティエリアの体。いい匂いがする。めちゃくちゃ細いよな、やっぱり」 腰をはかるように手をあてる。 そのまま、服を脱ぎだしたロックオンの体をしたティエリアに、ロックオンはビンタをくれてやった。 「あべし!ちょっと、これ、ティエリア、自分の体だぞ!」 「わかっますよ!何人の体で遊んでいるですか!破廉恥な真似は止めてください!」 「えー。だってさ、せっかくなんだしベストくらい脱いじゃおうと思って。案外苦しいぞ、これ」 「慣れれば平気です!」 ロックオンの体になったティエリアは、プンプン怒っていた。 「おー、新鮮新鮮。目線が低い!」 また、ロックオンをビンタする。 自分の体ではあるが、ビンタくらい構わないだろう。 かわって、ティエリアも高くなった目線に戸惑っていた。 後ろを振り返ったり、そわそわしている。 それに、ティエリアの姿をしたロックオンが血を吐きそうになっていた。 仕草がかわいいのだ。 自分の体でやられても、きもいだけだ。 だが、中身はティエリアだ。やっぱりかわいいかも。 「ティエリア、好きだー!」 ティエリアに抱きつく。 ティエリアは、よろめいて壁に背中を打った。 そのまま、ロックオンがのしかかってくる。 「たまにはこういうのもいいよなぁ」 ロックオンがキスしてくる。 自分の体を見て欲情するような変態ではないので、ティエリアの髪をくしゃりと撫でた後、離れた。 「あ、いたいた、ティエリア探してたのよ!さぁ、はやくきてちょうだい!」 いきなりきたミス・スメラギにロックオンは引きずられていく。 「違う違う、俺はロックオン!」 「何アホなこといってるの!さぁ、約束通り、ゴスロリメイドコスプレしてもらうわよ!」 「メ、メイド!?簡便してくれーーーー!!」 去っていくロックオンに、ティエリアは心の中でアーメンと十字を切った。 メイド服なんて着たくもない。 ロックオン、どうせならそのまま僕の変わりに着てくれ。 そして、少しは着せ替え人形のように女性クルーに扱われる僕の気持ちを思い知ればいい。 ティエリアは、ロックオンがいなくなったこともあり、まぁ急いでも仕方ないかと歩きだす。 「あ、いたいた、ロックオン。じゃがいも買ってきたよ」 途中であったアレルヤが、じゃがいもの入った袋を渡してくる。 「そんなもの、いらない」 ぷいっと、ティエリアは無視した。 「えー!それはないよ!人をこき使っておきながら、酷いよ!」 ポカポカ叩いてくるアレルヤがかわいい。 「酷いよ!!」 アレルヤの頬を片手で挟みこむ。 おもいきりクールな顔をして「悪かったな。ごめん」と口にして唇を重ねた。 「はう?」 アレルヤが固まる。 ティエリアは、ロックオンに覚えこまされた舌使いでアレルヤに口付けする。 「んんー」 目に涙をためて、縋りついてくる。 ああ。 なんか、ロックオンの気持ちが分かった気がする。 好きな相手を食べてしまいたいって気持ち。 ティエリアは、わりとアレルヤのことが好きだった。 とてもとてもかわいくて、時折食べてしまいたくなる。 「んあ」 へたりこんだアレルヤの頭を撫でる。 「ロックオン、ティエリアが好きじゃなかったの!?」 真っ赤な顔で告げてくるアレルヤに、ティエリアは真顔でこういった。 「僕はロックオンが好きです」 いつもの調子に戻ったティエリアに、アレルヤがぽかんとしていた。 「ロックオン?なんか、いつもと雰囲気が違うよ?」 「ふ。俺は見ていた。ロックオンがアレルヤに手を出したホモであること、そして自分を愛する倒錯的なナルシストであること」 廊下の角に隠れて一部始終を見ていた刹那が現れ、二人の前でしゃべりだす。 普段なら、ロックオンに頭をはたかれていただろう。 だが、今は中身はティエリアだ。 刹那の言葉を否定もせず、刹那をじっと見つめる。 「な、なんだ」 「刹那もかわいいよね」 笑顔で言われて、刹那はぶるぶる震えてアレルヤの背に身を隠した。 涙を浮かべながら、首を振る。 「お、俺は、残念ながら女性しか愛せないんだ」 どうせ、ロックオンの体だしいっかー。 逃げようとする刹那の襟首を掴んで、深いキスをした。舌を絡ませる。 「っつ」 刹那は、キスし終わると、顔を真っ青にさせた。 「ホモ!変態!・・・・・・・・うわあああああああああん」 泣きながら去っていった。 男にディープキスされてショックだったのだ。 しかも、舌まで入れらた。 アレルヤが、ふらふらと立ち上がる。 「ロックオン、見損なったよ!ティエリアという存在がありながら、僕や刹那にまで手を出すなんて!この色魔!下半身男!」 そのまま、アレルヤも泣きながら去っていった。 「おかしいな?」 ディープキスは、友情の証でもあると、ティエリアはロックオンに教えられていた。 実際に、刹那とアレルヤにしたこともある。 その時は顔を真っ赤にされて、口をパクパクさせていたが。 反応が随分違う。 「うわあああ!ティエリア、助けてくれえぇぇぇ!」 情けない声をあげて逃げてくるのは、ティエリアの姿をしたロックオンだった。 見事なまでに、ゴスロリメイド服を着ていた。 「せっかくティエリアの体になったから、何かいいことあるかと思ったけど、女装なんて簡便してくれ!・・・・ティエリア、まさか俺が買った服を着るときも、こんな風に嫌な気持ちを味わっているのか?」 「いいえ。慣れましたので、平気です」 「そっか、良かった」 「バーチャル装置のところにいきましょう。そして、元に戻りましょう」 「ああ」 二人は元に戻った。 ゴスロリメイド服姿になったティエリアも、流石にその格好に辟易していたようである。 「でもやっぱ似合うな。かわいい」 「今だけのサービスです」 女性クルーたちは、いつもティエリアが逃げ出すので、追っかけてくることはなかった。 「やっぱ、元の体のがしっかくりくるよな」 「そうですね」 二人は並んで歩きだすと、それぞれ用があるので別れた。 ティエリアはもとの私服に着替えるために着替えて、バーチャル装置の不具合を確かめなければいけない。バーチャル装置の管理責任は、ティエリアのもとにあった。 ティエリアは、私服に着替えると早速バーチャル装置の不具合をみて、システム故障の原因をつきとめ、プログラミングしなおしていく。 一方の、ロックオンは。 「わぁ、近寄らないで!僕も、刹那と一緒で、女性しか愛せません!ロックオンの気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい!」 「おいおい、何言ってるんだよアレルヤ」 「わああああ、変態、色魔、下半身男!!」 ダッシュで、アレルヤはロックオンの前から逃げ出した。 逃げ出した反対側から刹那がくる。 「刹那?」 顔を青ざめて固くなっている。 「どーした刹那。何か嫌なことでもあったのか。お兄さんが慰めてあげようか」 ぶるぶるぶる。 刹那は震えだした。 そして、涙を滲ませる。 「このホモ!ホモホモホモ!また俺を襲う気なんだな!そうはいくか!」 シャァァァと、獣のようにうなり声をあげる。 「何いってんだ、刹那?」 「言い逃れするつもりか!俺とアレルヤにディープキスしたくせに!この変態!色魔!」 そう言って、刹那も逃げていった。 ちょうど、アレルヤと刹那にディープキスをした場面を、女性クルーも目撃していた。 しばらくの間、ロックオンはいわれもない疑いをかけられるはめとなった。 その原因がティエリアであったとはいえ、しばらくの間皆から色魔、変態と呼ばれまくった。 そして、ティエリアにはロックオンなんかと別れたほうがいいと言われながらも、色魔、変態と呼ばれて涙ながらに天井を見上げるロックオンの傍にいた。 友情でディープキスをするのは嘘だったのだ。 それを教えられて、ティエリアも真っ赤になって怒った。 だが、後の祭りである。 何はともあれ、今日もトレミーは平和だった。 |