あなたの手







「ティエリア、髪大分伸びたな」
ロックオンが、肩をすぎてしまったティエリアの髪をさらう。
自分の容姿に無頓着なティエリアは、髪を伸ばしたまま放置していた。
手入れはしているし、枝毛一つない。綺麗なツヤを保ったまま、サラサラである。

ティエリアは、自分の髪をつまんだ。
確かに、少し長くなりすぎたかもしれない。
このままでは、ヘルメットを着用したときなどに邪魔になりそうだ。

「ロックオン。刹那の時のように、髪を切ってください」
「俺がか?いいのか?」
「はい」
「せっかく綺麗に伸びてるのに勿体無い」
「僕は女性ではありません。髪を長く伸ばすつもりはありません」
「おし、分かった。んじゃ準備するから、ちょっと待っててくれよな」

ロックオンの部屋にいく。
椅子に座らされ、まるで美容院にいるような格好になる。
髪は水ふきでしめらせてある。

「おし、職人の腕がなるぜ」
どういう職人なんだ。
まぁ、口うるさい刹那も、ロックオンに髪を切られたときは文句一つ言わなかった。
腕が完璧だったのだ。

ハサミを片手に、紫紺の髪にハサミをいれ、切り落とす。
シャキ、シャキ。
一房、一房、切り落とされていく。

髪をすかれる。
その感覚に、ティエリアは眠くなってきていた。
ロックオンに髪をいじられると、いつも気持ちよすぎて眠くなってしまう。

「こら、ティエリア寝るな」
「はい」
なんとか目を開く。

シャキ、シャキ。
規則正しい音で、ハサミが動く。

少しづつ切られていくティエリアの髪。
切り落とされた紫紺の髪が、地面を覆う。
まるで、紫紺色の絨毯。

毛先を揃えられる。
シャキ、シャキ。

「どうする?軽くシャギー入れて軽くするか?」
「いいえ。いつものままで結構です」
「へいへい」
ティエリアの眼鏡をとって、前髪も切る、
前髪だけは、ボリュームの多さを減らすために少し髪をすいた。

「こんなもんかな?」
鏡を渡される。
それに、ティエリアが満足そうな顔をする。
「あなたは、美容師が向いているのかもしれませんね」
「ははは、無茶いうなよ」
ドライヤーを取り出して、髪を乾かす。

サラサラの髪は、以前のように綺麗に肩で切りそろえられた。
「どうかしたのですか?」
「いやぁ、やっぱちょっと勿体無いなぁと思って。長ければ、いろいろと結えるのに」
「戦闘行為に支障を出すので、これ以上は伸ばしません。でも」
「でも?」
ティエリアが、はさみを置いたロックオンの手に口付けた。
「もしもこの戦いが終わって一緒に暮らすことになったら、伸ばしても構いません」
「暮らすことになったら、じゃなくて絶対に一緒に暮らすんだ」
「あなたの手は綺麗ですね」
じっと、ティエリアはロックオンの手を見つめる。
ロックオンがはにかんだ。
「お前の手のほうが綺麗だよ」
「あなたの手はとても器用だ。僕は、あなたの手が好きです」
「ありがとさん」
髪を撫でられる。
その感触にティエリアは目を瞑った。

「また、髪が伸びたら切ってくださいね」
「ああ、任せろ」

他愛もない約束。
その約束が二度と果たされることがなくなるなどと、その時のティエリアは知る由もなかった。