「ううう、もう食べられないですう」 「・・・・まだ居たのか」 ティエリアは、格納庫でガンダムの修理をして、疲れ果てて眠ってしまったミレイナに毛布をかけていた。 てっきり、自室に戻ったものだと思っていたが、ミレイナはその場所でまだ眠っていた。 毛布は蹴られて、足元にぐしゃぐしゃになっている。 短めのスカートは捲れて、パンツが丸見えだった。 「イアンに少し似ているな」 こういう大雑把というか、粗雑なところはイアンにそっくりだ。 紹介されたミレイナの母親は若く美しく、ミレイナにはあまり似ていない。 ミレイナは、どちからというと父親のイアン似だろう。 「あちゃー、なんつー格好して寝てやがるんだ」 イアンがやってきて、我が娘のあまりの格好に顔に手を当てた。 ティエリアの手が伸び、ミレイナを抱き上げた。 「ティエリア?」 「イアンにはガンダムの修理を一刻も早く頼みたい。ミレイナは、僕が部屋まで運んでおくので、ガンダムのことは頼んだ」 「まぁ、ティエリアならミレイナを任せてもいいか」 他の男どもなら断っていたが、ティエリアは無性の中性体であり、女性に全く興味を示さない。刹那とライルと三角関係であるようで、存在的には女性に近いだろう。 「ミレイナのことは頼んだ。ガンダムのことは俺に任せておけ」 「いつもすまない。ありがとう、イアン」 「いいってことよ」 そのまま、ティエリアはミレイナを抱き上げた。 トレミーでも一番若いミレイナの体重は軽いが、それでもティエリアには重かった。 よろめきつつも、しっかりと抱きかかえて、ミレイナの部屋へと歩きだす。 「んあー、もう食べれないですう。でも食べたいですう」 むにゃむにゃと寝言をいうあどけない少女に、自然とティエリアの表情も綻ぶ。 「っあ」 躓きそうになって、体勢を立て直す。 そのとき、ミレイナが目覚めた。 「アーデさん?なにしているですか?」 「寝てしまった君を、君の部屋まで運ぼうとしていた」 そのときのティエリアは、いつもの美しい顔を優しく和ませていた。 少女のようにも、少年のようにも見える中性的な顔立ち。 「あわわわ、一人で立てるですう」 ミレイナが暴れて、ティエリアはよろめいた。 「う・・・」 「アーデさん?」 「すまない。戦闘の時に少し負傷したんだ。みんなには内緒にしていてくれ・・・・またいつ敵が襲ってくるかも分からない」 ミレイナは、毛布をティエリアにかけると、ティエリアを抱き上げた。 「ふん!!!」 ミレイナは力が無駄にあることが、自慢の種だった。 「ミレイナ、無茶をしなくても一人で立てる」 そういうティエリアであったが、つらそうな顔している。 左肩にはうっすらと血が滲んでいた。 「イノベーターの再生速度をもてば、数時間で治る。どうか、このことには皆には」 「言いませんですう」 そのまま、ティエリアを抱きかかえて、ミレイナはドシドシと歩き出した。 「普通、逆ではないのか?」 「アーデさんは患者さんですう」 ミレイナは自室までくると、そのままティエリアを寝台に下ろした。 「ありがとう。女性に運ばれるなんて、恥ずかしい・・・」 頬を染めるティエリアに、ミレイナはもう我慢できなかった。 「アーデさん!衣服をとっとと脱ぐですう!」 あれよあれよという間に、衣服を脱がされる。 黒のベストは着たままで、その上から左肩に包帯が巻かれた。 「ありがとう、ミレイナ」 「アーデさんは、女性に恋したことがありませんね?」 「え、ああ、そうだけれど」 「女性に恋をすれば、男性になりますか?」 「僕は無性だから、完全な男性にはなれないけれども、男性の存在に近くはなると思う」 「おっしゃあ!」 ミレイナはガッツポーズをとった。 「今のアーデさんでも十分素敵ですう。今のままでもいいかも・・・」 「ミレイナ?」 ミレイナの目は輝いていた。 「アーデさんは、ミレイナの王子様ですう」 「は?」 「これからラブラブアタックしかけて、いつか落としてみせますう」 「あの、ミレイナ?」 「うふふふふふ」 すでに、ミレイナは怪しい笑みを浮かべていた。 「ミレ・・・」 唇が、ミレイナの唇と重なる。 ティエリアは真っ赤になった。 「ミレイナ、君はなんてことを」 「私、アーデさんが好きになりました。初恋ですう」 「初恋ってミレイナ」 「恥らうアーデさんも素敵。禁断の愛でも構いません。ミレイナはアーデさんが好きですう」 「僕もミレイナのことは好きだよ。でも、君には僕なんかよりも素敵な男性が現れるはずだ」 「その謙虚さが堪らないですう。ロックオンさんを愛し続けるティエリアさんも堪らないですう」 「あー、ミレイナ?」 「このネタを同人誌に描かなければ!」 いた。 ここにも、ミス・スメラギの毒牙にかかり、同人誌にはまり、そして自分で作成までする人間が。 ティエリアもミス・スメラギの仲間なので、なんともいえない。 「アーデさんと恋するミレイナ。ああ、素敵」 すでに、妄想の世界に入っている。 ティエリアは、静かにミレイナの部屋を後にした。 ミレイナは、早速漫画を描く原稿用紙を取り出して、そこに下描きをかいていく。 ティエリアはため息をついた。 これは、イアンに小言をいわれることになりそうだ。 ミレイナは悪い子ではない。 好きにはなれないと、無残に突き放すこともできない。 これから困ったことになりそうだと、ティエリアは天井を仰いだ。 |