「うう・・・・」 意識をなくした刹那は、夢を見ていた。 子供の頃の夢だ。 まだ、幼い少年時代の夢を。 神の意思だと、銃をもちだして、その銃で数え切れないほどの命を奪った。 夢の中には、ロックオンも出てきた。 「変われなかった俺の代わりに変われ、刹那」 手を伸ばしても、ロックオンには届かなかった。 響き渡る銃声。 悲鳴。 父親と、母親の。 「ソラン、どうして」 母親が、涙を浮かべて幼い刹那に手を伸ばす。 その胸に、また銃を発砲した。 面白いくらいに、二人の体からは血が溢れてきた。 返り血を浴びた刹那は、ニィと笑みさえ刻んでいた。 狂った、小悪魔。 狂信者とは、こういう者をさすのだろう。 いない神に縋りついて、神の名を口にして殺戮を繰り返す。 そこで、刹那が目覚めた。 ブルーサファイアの懐かしい瞳が、じっと自分を見つめていた。 「マリナ・イスマイール。唄が、聞こえたんだ」 「刹那」 マリナは涙を零して、刹那の頭を胸に抱いた。 「本当に心配したの。刹那の傷は命に別状はないって衛生医師に言われたけれど、気が気じゃなかったわ」 「迷惑をかけて、すまない。もう出て行く」 「まだ無理よ!」 マリナが制する前に、刹那は痛みでベッドから起き上がることさえもできなかった。 「ここで、ゆっくり傷を癒して?」 「それはできない」 逡巡さえない回答だった。 「どうして!」 「仲間が命の危機に晒されている。俺だけ休息をとることなど、できない」 「刹那」 「俺は仲間を守る。決して、もう誰も死なせはしない」 「それは、ロックオンさんのこと?」 「どうしいそれを」 刹那のルビーの瞳が険しくなった。 「あなたが、眠りながら寝言でいっていたの。俺は、ロックオンのように死なない。ロックオン、お前の分まで未来を変えてみせるって」 「そうか・・・」 ベッドのシーツを握り締める。 「マリナ、子供たちはいいのか?」 「ええ。自分たちから、出て行ってくれわた。私も、刹那と二人きりになりたかった」 「マリナ」 「刹那、愛しているわ。どうか、死なないでちょうだい」 「マリナ、俺も愛している。俺は死なない」 ベッドに縋りつくマリナの長い黒髪をすく。 「俺は・・・・実の両親をこの手で殺したんだ」 「え!?」 「あの頃は、神の存在を信じていた。神など、世界のどこにもいないというのに」 「刹那・・・・」 「マリナ。どうしてお前が泣く?」 「あなたが泣かないからよ!」 いつの日か、トレミーで同じ言葉をきいた。 「あなたのかわりに、私が泣くわ」 ブルーサファイアの瞳からいくつもの涙を溢れさせて、マリナは静かに泣いた。 「ソランと、呼んでくれないか」 「あなたの本名だったわね。ソラン」 真紅のルビーの瞳から、透明な涙が溢れてシーツを滴った。 「すまない、父さん、母さん。俺があなたたちを殺してしまった」 「ソラン、泣かないで」 「神など、どこにもいないのに」 「神様は、きっといるわ。私は信じている」 「俺は信じない。神がいれば、こんな世界はとっくに滅びているはずだ。こんな歪んだ世界は」 「それは・・・・」 言葉につまるマリナ。 「マリナ。唄を歌ってくれ」 「でも。ここには、オルガンも何もないわ」 「ただの唄だけでいい。子供たちと歌っていた唄が聞きたい」 「分かったわ」 マリナは歌った。 精一杯の思いをこめて。 綺麗な歌声を聞きながら、刹那は目を閉じた。 もう、涙は止まっていた。 戦士に涙など、無用の代物だ。 いつの間にか眠りについてしまった刹那を確認して、マリナもそのベッドの傍らで静かに眠るのだった。 変われなかったロックオンの分まで、俺は変わる。 生きて、生き延びて。 そして、世界を変えてみせる。 仲間たちと共に。 そしていつか争いがなくなったその日に、マリナを迎えにいくのだ。 ティエリアを捨てたりもしない。 一緒に生きるんだ。 マリナを愛しながらいつか結婚し、ティエリアを養子として家族に迎えよう。 いつか、きっと。 |