血の誓い







刹那は目を開けた。
もう大分見慣れてしまってテントの天井が視界に入り込む。
右肩の痛みに、眉をしかめる。
半身を起す。
ほとんど半裸だ。
ポクサーパンツしか身につけていない。
脱がされてしまったノーマルスーツは、綺麗に折りたたまれて手の届く範囲にあった。
子供たちと、マリナの歌声が聞こえてきた。
刹那は、立ち上がろうとして、あまりの痛みに、右肩をおさえてベッドの傍に蹲った。
やがて歌声が止む。
マリナは、刹那のために食事をもってきて、ベッドの傍に蹲っている刹那に食事の入ったトレイを簡易テーブルの上に置くと、叫んだ。
「無理をしてはだめよ、刹那!まだ寝ていなくちゃ!」
「時間が、惜しい」
「そんなこと言わないで!まだ休んでいて!ああ、傷口が!!」
じわりと朱に染まっていく刹那の右肩に、マリナがすぐに衛生医師を呼んだ。
「くれぐれも、無茶はしないように。命に別状はないとはいえ、重症であることに変わりはありません」
衛生医師は、刹那の手当てをおえ、新しい包帯を巻き終わると、呆れたように去っていった。
「刹那。どうして、自分で自分を傷つけるような行動をするの?」
起き上がれば、正規の十分な手当てを受けることのできないこの場所では、傷口がすぐに開いてしまう。
「マリナにも、分かっているだろう」
「それは・・・」
一旦、言葉を区切る。
「でも、傍にいて欲しいの」
「俺だって、マリナの傍にいてやりたい。だが、今は無理だ」
「刹那!」
マリナが、刹那に抱きついた。
その体を受け止めて、刹那はマリナに触れるだけのキスをする。
「マリナがアザディスタンを捨てられなかったように、俺にも捨てられないものがある」
「刹那」
「あと数時間もしないうちに、俺は出発する。鎮痛剤が欲しい」
「分かったわ。衛生医師に頼んでみるわ」
「すまない、マリナ」
「刹那は戦っているんですもの。私たちの分まで。できる限りのことはするわ」
マリナの胸には、黒曜石のペンダントが光っていた。
「その黒曜石・・・・持っていてくれたのか」
「刹那がくれたものですもの。大切にしているわ。なくさないように、ペンダントにしたの」
「そうか」
「刹那?」
ぎゅっと、マリナを抱きしめ耳元で囁く。
「マリナ、愛している」
「私もよ、刹那」
「いつか。迎えに来るから。待っていてくれ」
「しわしわのおばあちゃんになっても、待っているわ。ずっと」
「ああ。約束だ」
刹那は、親指を噛み切った。
マリナが驚く。
だが、マリナも同じように親指を噛み切る。
「誓いの、証を」
血が交じり合う。
「誓うわ」

にじみ出た血は少量だった。
だが、誓いは果たされた。
あとは、そのときを待つのみ。
たとえ、どんな未来になろうとも、ずっとずっと、待ち続ける。
約束をしたのだから。