眠る王子様







「ねー、マリナ様、お兄ちゃん全然おきないねー」
子供の一人が、マリナの服を掴んだ。
「ええ、そうね。このまま、寝かせてあげましょう」
「マリナ様。このお兄ちゃん王子様みたい」
「王子様?」
「うん。だってすごいかっこいいもの」
「そうね・・・」
刹那の寝顔を見つめる。
美しいとも表現できる青年に育った刹那。
もう、昔のような幼い面影はそこにはあまりない。
大人として成長した刹那。これからも、大人として成長していくだろう。
「マリナ様。お兄ちゃん、眠りながら泣いてるよ?」
「刹那?」
刹那はうなされていた。
「許してくれ、父さん母さん。ロックオン・・・あんたの死は無駄にはしない。あんたの分まで、俺は」
またうなさせる。
酷い汗をかいていた。
マリナは子供たちを残して、水の入ったばけつをもってくると、タオルを湿らせて刹那の全身をふいた。
「ごめんなさい、みんな、外で遊んでいてくれる?」
「はーい」
「マリナ様、王子様とラブラブ〜」
「お外でアソボ〜」
子供たちは、素直にマリナの言葉に従ってくれた。
テントの中で、マリナと刹那は二人きりになる。
「・・・・逞しくなったわね、刹那」
タオルで汗をふきながら、マリナは思う。
四年以上前は、まだ少年のあどけなさを残していたというのに。
今は、誰がどう見ても、一人の立派な青年だ。
そんな刹那と、体の関係を持ったことが一度だけある。
いずれまた、刹那に抱かれたいと、マリナは不謹慎と思いながらもそう思った。
王子様。
子供の一人が言っていた言葉を思い出す。
確かに、刹那はどこか王子様というか、孤高な雰囲気を保っている。
まるで、猛禽類のような鋭さだ。

「刹那、はやく目覚めて。あなたのピジョン・ブラッドのルビーの瞳が見たいわ」
マリナは祈る。
医師によれば、命に別状はないということだが、銃弾を受け、弾は取り除いたが被弾したショックで熱を出していた。マリナは解熱剤を噛み砕き、水と一緒に刹那に飲ました。そのお陰で、熱はもう下がっている。
マリナは、ペットボトルから水を一口含むと、刹那に口移しで飲ませた。
「はやく、目覚めて。そして、私を見て」
眠り続ける王子様を献身的に介護する。
刹那のダブルオーライザーの機体は、カタロンの兵によってエネルギーチャージが完了している。
刹那のことだから、傷が癒えないうちに、きっとここを飛び出していってしまうだろう。
ほんの限られた時間でも構わない。
刹那とこうして会え、そして直接会話をできるのであれば。
マリナは幸せだった。
「早く、目覚めて?」

うっすらと、刹那が目を開ける。
「刹那!」
「マリナ?」
まだぼんやりとしているようで、マリナの手を刹那は握り締める。
見たかったピジョン・ブラッドのルビーの瞳がすぐそこにある。
マリナは、ブルーサファイアの瞳で、真紅の瞳をじっと見つめ返すのであった。