「ティエリア!」 ロックオンが、グラリと傾いだティエリアの身体を抱きとめる。 ゴホリ。 ティエリアは血を吐いた。 じわじわと、大量の血が広がっていく。 「ティエリア!」 駆け寄ったリジェネは、泣いていた。 あれほど強い兄が、泣いている場面など始めてみた。 ティエリアは、微笑んだ。 「リジェネ、兄さん」 「ティエリア!!今、血を止めるから!!」 必死になって、リジェネは魔力を集中させ、傷を癒す。 淡い光が室内に満ち溢れる。 「くそっ」 ロックオンが、心臓に突き刺さっていた真紅の刃を抜き取って、ヴァンパイアハンターの光の剣をとってくると、その光を真紅に輝かせると、ティエリアの心臓を突き刺した。 「何をする、貴様!」 リジェネが狼狽する。 「うるせぇ!ヴァンパイアハンターの光の剣は、真紅にすると治癒の効果があるんだ!真紅の光で引き裂いたり突き刺したりした者を癒す」 完全に、真紅の光がティエリアの身体を包み込み、そして内側に消えた。 リジェネは、自分の血を滴らせ、治癒以外にも失ってしまったティエリアの血液を補おうとした。 「だめ。兄さんが、死んでしまう」 ティエリアが、拒んだ。 ティエリアに滴った真紅の血は、もとの持ち主であるリジェネの身体に吸い込まれてしまった。 過度の血液の流出も、ヴァンパイアに死をもたらす。 不老不死と歌われているが、案外に脆いものなのだ。 ゴホリ。 ティエリアは、血を吐いた。 その真紅に、リジェネもロックオンも涙を浮かべる。 「ねぇ、どうして、人間とヴァンパイアは一緒に仲良く暮らせないのかな?」 「ちゃんと保護区ができた!そこでは、人間とヴァンパイアが共存している!」 「共存、ちゃんと一緒に生きてる?」 「ああ、一緒に生きてる」 ティエリアは手を伸ばして、ロックオンの頬に手を当てる。 「愛しています。ロックオン。僕も、そこで一緒にあなたと生きたかった」 「ばかやろう、そこでお前も一緒に生きるんだ」 「そうですね」 ティエリアは微笑んだ。 ゴホッ。 また大量の血を吐いた。 治癒の真紅の光が消える。 傷口からは、鮮明な色の真紅があふれ出す。 じわじわと、ティエリアの衣装を真紅に染め上げただけでは足りなくて、部屋の床に大量に滴った。 「保護区。ねぇ、兄さん。兄さんは、保護区で人間と暮らしたいと思わない?」 「ばかなことを!誰が薄汚い人間なんかと!そんなことを選ぶくらいなら、死を選ぶ!」 「兄さんらしいなぁ」 ゴホリ。 血を吐きながら、ティエリアは涙を零した。 「一緒に、兄さんも一緒に、幸せに暮らしたいな」 「お前が望むなら、そうする!だから死ぬな!」 リジェネが、ティエリアの手を握り締める。 心臓の傷は、もう致命傷だと分かっているのに。 否定したい。 現実であると受け入れたくない。 「兄さん、僕は、兄さんのこと愛していたよ」 「当たり前だろう!僕だって、ティエリアのことを愛している。たった二人の兄弟だろう!?」 「ロックオン。僕、ヴァンパイアだけどあなたと出会えてよかった」 「ティエリア!」 「あなたと、保護区で暮らしてみたかったなぁ」 ティエリアは、笑った。 ゴホリ。 また、尋常ではない量の血を吐いた。 「ロックオン。髪飾り、ありがとう。愛してます。兄さん、僕はヴァンパイアとして不能で、いつも兄さんの足を引っ張っていた。兄さん、ありがとう」 「ティエリア!」 「ティエリア!!」 涙が、滴る。 リジェネは、生まれて始めて泣いていた。 僕の半身が死んでしまう。 ロックオンも泣いていた。 愛しい存在を保護しにきたはずなのに。 たとえ種族が違うとはいえ、その間に芽生えた愛は真実であった。 これからなのに。 「僕は兄さんを犠牲にして生きていた。もう、人殺しはやめて?」 「約束する!だから・・・!」 「うん」 涙を零し、微笑んだ。 ロックオンはティエリアを抱きしめ、涙を零す。 「ティエリア・・・・」 「僕は、神の子ではありませんでした。でも、ロックオン、僕は神に感謝をしています。どんな形であれ、この世界に生を受けられたことに感謝しています」 「ティエリア」 唇を重ねた。 リジェネは、もう文句を言わない。 「兄さんありがとう。いっぱいっぱいありがとう。ロックオンもありがとう。僕を愛してくれてありがとう。たくさんのありがとうを二人に。二人とも、愛しています」 ちらちらと、蒼い花びらが室内に降り注ぐ。 幾つもの蒼い薔薇が咲いては枯れ、咲いては枯れた。 「ティエリア、一緒に保護区に行こう!」 「はい、ロックオン」 ティエリアは微笑むと、そのまま動かなくなった。 石榴の瞳は虚空を見つめたままだ。 「ティエリア?」 ロックオンが揺さぶる。 「ティエリアあああぁぁぁぁ!!!」 ロックオンの手から、ティエリアを奪って、リジェネがうめいた。 「ああああ・・・・・・」 真紅の血液が、消えていく。 サラサラと、ティエリアは灰になっていった。 「ティエリア!」 「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 リジェネは、泣き叫ぶと、狂ったように紅い翼を羽ばたかせた。 NEXT |