「刹那、包帯を変えるわ」 マリナが、新しい包帯を手に、やってきた。 刹那は半身を起き上がらせ、自分で包帯を解いていく。 真新しい清潔な包帯が巻かれていく。 傷口にあてられたガーゼもかえる。 アルコールで傷口を消毒すると、刹那の表情が少し動いた。声はあげない。 そのまま、新しいガーゼをあてて巻かれていく包帯に、刹那はゆっくりと傷を負っていないほの腕をあげ、行動に支障がないかを確認する。 「痛くない?」 「痛いに決まっている」 「鎮痛剤を渡すわね」 そのまま、錠剤の鎮痛剤を渡され、刹那はペットボトルの水と一緒に飲み込んだ。 傷口は熱を持ってしまっている。 マリナが飲ました解熱剤の効果で、刹那は熱を出さなかったものの、それでも汗をだしてうなされていた。 「終わったわ」 手当てを終えると、刹那はマリナの髪を手の平にのせた。 ストレートの腰よりも長い、黒曜石のように美しい黒髪。最高級の絹糸のような手触りだ。 黒髪に口付ける。 「刹那・・・・」 ゆっくりと、刹那の手がマリナの頬に当てられる。 そのまま、マリナはブルーサファイアの瞳を閉じた。 最初は浅く、次は深く唇が重なる。 「刹那」 マリナの白い手が、刹那の逞しい背中にまわる。 そのまま、ベッドにもつれ合う。 「愛しているわ、刹那」 「俺もだ」 口付けてから、すぐに刹那は身を起した。 マリナも離れる。 子供たちの笑い声が、すぐ近くから聞こえてきた。 「マリナ様、お歌歌って!」 「マリナ様、マリナ様!」 「歌ってー!」 幾人かの子供たちが、マリナを取り囲む。 「そうね、歌いましょうか」 マリナが太陽のような明るい微笑を浮かべる。 「お兄ちゃんも、一緒に歌おう!」 子供の一人が、刹那の手をとる。 「いや、俺は」 「だめよ。刹那は怪我をしているの」 「そっかー。残念」 「マリナ様、はやくはやく!」 カタロンの人が、オルガンを刹那のいるテントにまで運んできてくれた。 「どうも、すみません」 「いいんですよ」 マリナは古ぼけたオルガンの前に座ると、曲をひきだす。 そして、歌いだした。 子供たちは、輪になってマリナと一緒に歌う。 「・・・・・・・・・・」 刹那は、黙ってその歌を聞いていた。 ダブルオーライザーに乗っていたときに聞こえてきた歌と同じだった。 「俺は、変わる」 歌声を聞きながら、マリナの横顔を見つめる。 傷を負った右肩に手を当てる。 マリナの歌声は透明でよく澄んでいた。 「ティエ・・・リア・・・」 マリナの姿に、なぜかティエリアが重なった。 歌姫としての存在は、圧倒的にティエリアのほうが上だろう。人工的にそう作られているティエリアであるが、まるでカストラートのような美しい歌声を出す。 自然で美しい歌声をだすマリナと、人工的に最高の声帯を与えられたティエリアを比べることはできない。 だが、声は美しくとも、歌を綺麗に歌うというものは後天的なものだ。 ティエリアは、天性の歌姫だ。 マリナは、人を優しく癒す太陽のような歌姫だ。 ティエリアはしっとりとした銀の月のように、魔性的に人を魅了する歌姫だ。 ある意味、対極にいる二人。 今頃、仲間がどうしているのか。 「刹那?」 操舵室で、休憩にいったミス・スメラギの変わりに、仲間たちの指揮をとっていたティエリアが、刹那の名を呟く。 「どうしたの、ティエリア」 フェルトが、振り返る。 「いや、気のせいだ。刹那に、名を呼ばれた気がした」 「刹那は無事よ」 「ああ、そうだな。彼なら、無事合流できるはずだ」 ティエリアは茶色の手袋に包まれた指を前方に向ける。 「そのまま前進!起動エレベーターに向かって、このまま舵を」 「了解」 「了解」 「ティエリア、ガンダムの調整が終わったぞ。お前も大変だなぁ。流石は伊達に四年間リーダーとしてやってきてはいないな」 操舵室にやってきたイアンが、頭をかいていた。 「ありがとう、イアン。そのまま、トレミーの内壁の修理作業と、動力機関の修理を続けてくれ。特に、動力機関の修理は急いでくれ」 「あいよ・・・・ティエリア」 「何か」 「刹那は大丈夫だ」 「分かっている」 言葉には出さないが、ティエリアは刹那がいないことで少し不安定になっていた。それを忘れるように、指揮をとって仕事に忙殺される。 「全速、前進!動力機関の修理が直り次第、トレミーは敵との接触を避けるため、海中に潜る」 「了解」 「了解」 茶色の手袋に包まれた手で空を裂く。 「全員に通達。これより、2:00に一時休憩に入る。現在休憩しているメンバーは、各自交代するように。起動エレベーター付近ではアロウズの奇襲も考えられる。皆、気を抜かないように」 操舵室で、休憩にいったミス・スメラギのかわりに総指揮をとるティエリア。 その腕前は、ガンダムマイスターたちが邂逅するまでの四年間で実証済みだ。 「繰り返す、これよりトレミーは起動エレベータに向かって前進する。アロウズとの戦闘ともありえるので、気を抜くことのないように」 ティエリアは石榴色の瞳で、強く前を前を向くのだった。 -------------------------------------------- 刹マリの刹ティエ。 ティエの指揮はきっとすごい腕のはず。 |