「全員に通達。これよりトレミーは敵との接触をさけるため、山間ルートに入る。激しい揺れがあるかもしれないので、注意するように。全員に通達、これよりトレミーは」 空を切る茶色の手袋。 ミス・スメラギは戻ってきたが、その補佐のためにティエリアはまだ指揮を執り続けていた。 もう、27時間になる。 操舵室に篭ってから、丸27時間だ。 無論、休憩どころか食事も睡眠もとっていない。 「ティエリア。後のことは任せて。いいから、休憩にいってちょうだい」 「まだ、大丈夫です」 「そう?無理はしないでね」 操舵室への扉が開く。 ライルが、持ち運び可能なパソコンを片手に重要書類をまとめる作業にとりかかっていたティエリアの、肩を強く掴んだ。 「ライル?」 「問答無用だ!」 「何を!」 そのまま、肩に担がれるティエリアを、ミス・スメラギは仕方のない表情で見送った。 「刹那がいないからって、やけになんな」 「やけなどおこしていません。手を離してください」 「いいや、だめだね。このまま、食事をとって休憩して睡眠に入ってもらう」 「横暴です」 暴れるティエリアの体をいとも簡単に封じ込めるライル。 「ティエリア。ライルの言うとおりにしなさい。これは艦長でもあるあたしの命令よ。命令には従ってもらうわ」 「ミス・スメラギ・・・・」 「ティエリアを頼むわね、ライル」 「任せとけって」 そのまま、ライルはティエリアを肩に担ぐと食堂に向かい、席に下ろす。 ティエリアも観念したようで、静かになった。 ライルが、食事をもってくる。 もう、空腹感は麻痺してしまっているが、目の前にもってこられたトレイの中身を口にしていく。 ライルは、それを紅茶を飲みながら静かに見つめていた。 「心配しなくても、刹那ならちゃんと合流するさ」 「そうですね」 綺麗に食べ終わったのを確認すると、またティエリアを肩に担いだ。 「おろしてください。一人で歩けます」 「そう言って、眠らずにまた作業するつもりなんだろ。俺が許さねぇ」 ぐっと、言葉に詰まるティエリア。 そのまま、ライルの部屋に連れて行かれ、ベッドにドサリとおろされた。 「うっすら目の下に隈ができてる。眠れ」 ティエリアの白皙の美貌は色褪せることはなかったが、確かに疲労のせいで霞んでいた。 氷の結晶のような美しさが、まるで溶けていくように、保たれている凛然とした美しさに靄がかかっていた。 「眠く、ありません」 「じゃあ、横になってろ」 「ライル!」 無理やり寝かしつけられて、ティエリアが起き上がろうとする。 それを、ライルが静止する。 「寝るまで、傍にいるから」 桜色の唇に、触れるだけのキスをする。 「本当に、傍にいてくれますか?」 まるで、幼子。 いつもは刹那に向けられる精神的に未熟な部分を、隠さずライルに見せるティエリア。 ライルはティエリアを優しくだきしめて、またキスをした。 「俺も一緒に寝るよ」 「はい」 そのまま、二人は横になる。 ティエリアは疲労のせいで、すぐに深い眠りについてしまった。 「本当に、頑張りすぎだぜ?」 ティエリアの髪を撫でる。 額にキスをして、ライルはティエリアの体を毛布でくるんで引き寄せた。 寝息もたてず、眠るティエリア。 その顔は、本当に天使のようだ。 「もっと、俺を頼れよな?」 ティエリアを出きしめたまま、ライルはずっとティエリアの寝顔を見つめていた。 |