「マリー」 マリーが振り向いたとき、そこにはいつもと変わらぬアレルヤがいた。 「どうしたの、アレルヤ」 アレルヤは、ミーティングルームで咲いていた白い花を一輪つんで、それをマリーの髪にさした。 マリーの銀色の髪はとても綺麗で、長いストレートだ。 「ああ、白い色じゃマリーの髪に埋もれちゃうかな」 「ありがとう、アレルヤ」 マリーは、髪にさされた花を手にとって、その芳香を楽しむ。 アロウズと戦闘ばかりの日々では、本物の花を拝むことなどまずそうそうできない。 せいぜい、バーチャル装置を使って花畑を見るくらいだ。 それでも、本物と変わらぬ仮想空間の花畑は心を癒してくれる。 だが、バーチャル装置をそうそう何度も使うわけにはいかない。 マスターであるティエリアの許可が必要だし、バーチャル装置は人の夢をかなえるためにできているが、CBのバーチャル装置は特別で、戦闘訓練用だ。 「勝手に摘んでしまって良かったの?」 「ちゃんと、許可はもらったよ」 「そう」 マリーは花も綻ぶばかりの笑顔を零す。 まるで、太陽のような笑顔。 金色の瞳は、本当に太陽のようだ。 銀色の髪は月だ。マリーは太陽と月の女神だと、アレルヤは思った。 そんなアレルヤの瞳も金色の銀色のオッドアイで、太陽と月の色を持っている。 同じ色をもっていることが、アレルヤには素直に嬉しかった。7 「またいつか、君をあの金色の海に連れて行くよ」 マリーゴールドが咲き誇る、広大な花畑へ。 「ええ、私もいきたいわ」 また、そこで二人で花冠を編んで持って帰ろう。 昔作った二つの花冠は、ドライフラワーにされて、マリーの部屋に大切に飾られている。 「マリーには、花が似合う」 「そうかしら?」 かわいい一輪の白い花を手に、マリーが首を傾げる。 マリーには、誰よりも花が似合う。 銀の乙女には、美しい花が似合う。 「もっと自信を持つといいよ。マリーは美人なんだから」 アレルヤの言葉に、マリーが照れた笑いを浮かべた。 「私よりも、ティエリアさんの方が美人よ」 「ティエリアは特別だよ。比べちゃいけない」 「そうね」 誰よりも美しいティエリアは、特別なのだ。その存在がイノベーターであるのだから。人間のイノベーター。仲間としてもとても頼もしい存在だ。 「また、ティエリアに許可をもらってバーチャル装置を使って仮想世界にいこうか」 「ええ、また花畑が見たいわ」 アレルヤは、マリーのためなら労力を惜しまない。 「マリー、愛しているよ」 「私も愛しているわ、アレルヤ」 そっと寄り添って、キスをする。 マリーは、白い花を少し髪が伸びてしまったアレルヤの耳にさす。 「髪が大分伸びてきたわね。今度切ってあげる」 「ありがとう、マリー」 前髪にかかる髪も大分長くなってしまった。 後ろ髪など、ゴムひもで結べるくらいに長い。 アレルヤの髪は少しクセっ毛で、いろんな方向にはねている。 マリーは腕が器用なので、アレルヤの髪をきちんと綺麗に揃えてくれる。 アレルヤは、耳にささったままの白い花を手にとると、キスをした。 「いつまでも、マリーと一緒にいられるおまじない」 マリーも、その白い花を受け取ってキスをする。 「いつまでも、アレルヤといられるおまじない」 二人は、微笑んで手を握り歩き出す。 マリーの右手には、しっかりと白い花が握られていた。 |