ホワイトラヴァーズ「震える魂の輪郭」







時間はあっという間に過ぎる。
新しいガンダムマイスターたちは、バーチャル装置などを使って戦闘訓練を繰り返した。
ガンダムマイスターは全員で四人。ティエリア・アーデという名の17歳くらいの少年と、ロックオン・ストラトスという名の22歳の最年長の青年と、アレルヤ・ハプティズムという17歳の少年、それに最年少である刹那・F・セイエイという名前の14歳の少年。
CB構成員の大体の名前は把握した。
トレミーという戦艦に乗ることとなる仲間の名前を。ミス・スメラギというのが一番の上司であり、戦術予報士としてこれから世界に武力介入する度に、ミッションを命じてくるだろう。それをクリアするために、ガンダムマイスターたちはひたすら訓練に明け暮れる。
ロックオンは、アレルヤとすぐに仲良くなった。アレルヤはとてもかわいい性格で人懐こく、ロックオンを本当の兄のように慕ってくれるいい子だった。
一番年下の刹那は一筋縄ではいかないタイプで、僅か14歳というのにガンダムマイスターとされただけあって、とても強固な意志を持っていた。揺るぎない、ルビーの真紅の瞳が印象的だった。だが、まだ幼すぎる。ロックオンは、はじめミス・スメラギに反対の意見を出した。

「刹那は子供すぎだ。子供に命を賭けた戦いをさせろというのか」
「あら、刹那は確かに子供だけど、計画の実行を遂行する頃には16歳よ?年齢としても十分でしょう」
「16歳でもまだ子供だ!」
「それなら、ティエリアとアレルヤはどうなるの。あの子たちも17歳前後よ。ティエリアの場合、もっとも、CB研究員が目覚めさせてまだ数年しか経っていないから、実際は刹那より年下ということになるんでしょうけど」
「数年・・・」
美しい少年のことを思い出す。
変わらず、自分のことを人間ではないと言い放っていた。まるで、人間と距離をあえてとるかのように、誰も寄せ付けない。その点では刹那も同じであったが、刹那は会話をはじめるとわりと素直に答える。子供扱いすると怒るが、訓練結果を褒められるととても嬉しそうにしていた。
ティエリアは、完璧だった。訓練でもまずミスがない。ガンダムの乗った訓練であれ、至近距離の体術であれ。
「ティエリアは、この計画には欠かせない存在よ。ヴェーダとアクセスできるイオリアの申し子。刹那も同じように欠かせない存在だわ。年齢の問題じゃないのよ、これは。もうガンダムマイスター候補ではなく、完全なるガンダムマイスターなの。彼ら、それにアレルヤ、あなたが乗るガンダムもすでに完成しているわ。ロックオン、子供だからという甘い感情は捨てて頂戴」
ミス・スメラギの言葉に納得はいかなかったが、確かに皆もうガンダムマイスターとして完全に生きていた。毎日訓練を受け、来るべき日に備えて。

その日も、バーチャル装置を使って四人で訓練した。
もう、彼らがのる機体は完成しており、その機体を見ることもできた。
ロックオンにはデュナメス、アレルヤにはキュリオス、ティエリアにはバーチェ、刹那にはエクシア。
ガンダムマイスターたちは、自分の過去を口にしない。名前も、コードネームで本名ではなかった。秘密は規則であり、重要事項でもあった。ロックオンも、もう刹那が子供だからと言う事も止めた。
刹那はひたむきにまっすぐに戦闘訓練を人よりも多くこなし、頑張っている。その姿を見て、今更ガンダムマイスターから外せなどと言えるはずもなかった。
食堂で、それぞれ食事をとる。
本来なら皆勝手に思い思いの時間にとるのだが、これも訓練の一つだ。
特に協調性の欠けるティエリアと刹那を、円滑に行動させるべく、仲間という意識を持たせることに重要な意義があった。アレルヤとロックオンは問題ない。
四人揃って、食事をとる。
他愛もない会話をする。それが、仲間という意識を広げてくれるきっかけとなる。仲がよくなるのにこしたことはないはずだ。刹那は無表情のまま、ロックオンとアレルヤの会話を聞いていた。だが、笑い話になると見ていても分かるほどに、笑いを無理やり我慢していますという表情となる。打ち解けるのに、そうそう時間はかからないのかもしれない。
ティエリアは、強固な砦だ。
美しい顔色一つ変えず、会話に差し支えないのない必要最低限な返事だけ返して、打ち解けようとしない。いや、一応は一緒にいるのだから、打ち解けようと努力はしているのだろう。そうでもなければ、こんな四人で一緒に食事をとるという行動は、馬鹿げていると去ってしまいそうである。
ティエリアとて、仲間と円滑に行動をとるために、コミュニケーションは必要だと思っていた。
だが、よく分からない。
ティエリアは理解できないでいた。
ヴェーダは、これから数年間一緒に暮らすガンダムマイスターたちと仲間としての意思を築けと答えてきた。人間でない僕が、人間の中で暮らしていくのに必要なのだという。一人で行動するのはなるべく避けるように。それがヴェーダからの指示であった。
なるべくはやく、この仲間たちと打ち解けるように。
ヴェーダの指示を、ティエリアは死守する。誰でもない、ヴェーダからの命令だからである。ティエリアにとってば、ヴェーダが全てである。ヴェーダの意思にそむく行動などできない。
「どうした、ピーマン苦手なのか?」
ティエリアのトレイの上には、綺麗に緑色の鮮やかなピーマンだけが残っていた。
「味が、苦いので好きではありません」
「好き嫌いはよくないぞ」
刹那が、ミルクを飲みながら答える。
刹那の以前の環境は最悪のものであった。食事がとれるだけでも感謝しなければいけない。
アレルヤは、優しく笑みを浮かべる。
「でも、嫌いなら無理して食べなくてもいいよ。好き嫌いはなくしたほうがいいけどね」
ロックオンが、フォークをとってピーマンを一切れさすと、それをティエリアの口元に持ってきた。
「ほれ、あーん」
「・・・・・・・・・」
「あーん。口開けろ、ティエリア」
「ミッションだと思え」
刹那の言葉に、ティエリアの白皙の美貌がなんともいえない表情を浮かべた。
ヴェーダも、食物の好き嫌いは関心できないと言っていた。
「がんばって、ティエリア」
アレルヤの励ましを受けながら、ティエリアは仕方なく口を開けた。
ピーマンを、噛む事もせずに丸呑みする。
それに、くくっとロックオンが笑った。
メロンソーダを飲んで、口内に残るかすかな苦味をとる。
「かわいいなぁ」
ロックオンの手が伸びて、ティエリアの頭を撫でた。
「子供扱いはよしてください」
ティエリアは、けれど以前のように手をはたくような乱暴な真似はしなくなっていた。
少しづつではあるが、ガンダムマイスターとして打ち解けてきている証であり、それがロックオンには嬉しかった。
「刹那もアレルヤもみんなかわいい」
刹那は、手を伸ばしてティエリアの飲みかけのメロンソーダをとる。
「君は、この味が好きなのか?」
「ああ、好きだ」
勝手に、ティエリアのメロンソーダを飲み干す。
それに、はじめてティエリアが笑顔を浮かべた。
「僕も、好きだ」
はじめて見たティエリアの笑顔は、ぎこちなかったが、見た目の年齢より彼をあどけなく、幼く見せていた。


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