僕の瞳には映らない「心の傷跡」







「ここは?」
目覚めたティエリアは、豪華な寝台に寝かせられていた。
「お目覚めかな、眠り姫」
声がして、ティエリアが身を震わせる。
「リボンズ?」
「僕との婚約を一歩的に破棄だなんて、僕を裏切ったんだね、ティエリア」
「違います!愛する人ができたんです!それに、あなたとの婚約は政略結婚で、祖父が勝手に決めたことです!僕の意思ではありません!」
「黙れよ」
ティエリアの頬に、冷たい何かが当てられる。
それが刃物であると、ティエリアは気配で察した。
「僕を殺すのですか」
「さぁね」
そのまま、一筋ティエリアの頬に傷をつける。
流れ出る血を、リボンズが舐めとった。
「僕は、あなたなんかに屈服しません。どんなことが起ころうとも」
「流石僕のティエリアだ」
美しい少女は、見えない瞳で果敢に立ち向かう。
「でも、いつまでそれが持つかな?」
ティエリアの着ていたブラウスを、リボンズが持っていたサバイバルナイフが裂く。
ティエリアは涙を零した。
そのまま、長い髪を掴まれた。
「痛い!」
「いいね、その表情。もっと泣き叫びなよ」
長い髪をきろうとして、リボンズが止まった。
「君は、髪が長いほうが綺麗だ」
「かわいそうな人」
ティエリアが涙を零す。
その言葉に、リボンズが激昂した。
「僕をバカにするな!」
拳で、ティエリアの顔を殴りつけた。
ベッドの上に投げ飛ばされ、ティエリアは口の中を切った。その血を飲み下し、見えない瞳でリボンズを睨んだ。
「あなたなんかに!」
僕は、負けない。

圧し掛かってくる体重。
裂かれる衣服。

僕は、負けない。
たとえ、体が蹂躙されても、心までは蹂躙できない。

下着姿になってしまったティエリアの肌を、サバイバルナイフが這う。
いくつもの傷が細かく刻まれる。
ティエリアは泣き叫ばなかった。
ぐっと、堪える。
だが、膝を割られて相手の吐息を感じた瞬間、それはやってきた。
「いやああああ、お父様、やめてやめて!」
ティエリアは泣きじゃくる。
「お父様?」
リボンズが、面白そうに、ティエリアの手首をとらえる。
「いやああ、お父様、お父様!助けて、お母様!こんなの嫌です、お父様!私をこれ以上汚さないで!!」
錯乱するティエリアに、リボンズは声をあげて笑った。
「あははははは、そういうことか。道理で、君は母親が生きているというのに、あんな施設に引き取られたわけだ」
「お父様、やめて!助けて、ニール!」
ガタガタと震えるティエリアを、もう一度組み敷く。
その石榴の瞳からは、ポロポロといくつもの涙が溢れ出てきた。
「君は、実の父親に性的虐待を受けていた。あの噂は本当だったんだ?」
ティエリアの耳元で囁く。
「お父様は・・・・私を・・・・・」
「犯されたんだろう?実の父親に、何回も」
「私は・・・・」
高熱で、両目が見えなくなったというのはうそだ。
精神的ショックで錯乱し、自分で両目を傷つけたのだ。そして、何度も手首を切った。
施設に引き取られ、やがて母親が父親と心中したと聞かされても、泣かなかった。父親が死んだと聞いてティエリアは心の底から笑った。そして何度も何度も手首を切った。
男になりたいと心の底から願い、綺麗に腰まで伸びていた髪を、カッターナイフで自分でギザギザに切った。
大人は信用できない。
施設から引き取られそうになる度に暴れた。
わざと泥を被って汚れ、いつも汚い格好をしていた。
手首を切るからと、周囲から刃物類がとりあげられると、フォークで自分の手を突き刺した。
男性が近寄ってくると、悲鳴をあげて逃げた。
今でも、時折手首を切る。
右手首を、何度も何度も。
死にたいわけではない。ただ、何度も切ることで安堵した。

「ニール」
ティエリアは、ニールと出会ってから、リストカットを止めていた。
「ニール、愛しています」
泣きながら、ティエリアは見えない瞳を天井に向けた。



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