僕の瞳には映らない「茨の眠り姫」







「桜か」
はらはらと散っていく花をみる。
ニールは、花屋に頼んででっかい枝ごと桜を買い込んだ。
病院の、ティエリアの病室に生ける。
「綺麗だろう。ティエリアみたいなだ」
「ワンワン」
あれから、もう4ヶ月が経とうとしていた。
医師は、原因は不明だといっていた。精神的ショックから、目覚めることを拒んでいるのかもしれないとも言っていた。
祖父であるイオリアは半ば諦めている。
ニールは、それでも諦めない。

「愛しているよ、ティエリア」

ちらちらと散る花びらをかき集めて、ティエリアの上に降り注がせた。
「ワン」
「マリア、ははは、桜まみれだ」
「愛しているよ、ティエリア」

茨の塔の眠り姫は、百年の眠りから、王子様のキスによって目覚める。

「茨の眠り姫。もう百年すぎちゃったぞ」
静かにキスをする。
反応はない。
ニールは暖かな細いティエリアの手をとって、自分の頬に当てた。
「なぁ、ティエリア。愛しているよ」
僅か、出会って2ヶ月足らずの恋愛だというのに、まるで何百年も恋していたようだ。
ティエリアの手に、エメラルドの瞳から溢れたニールの涙が触れた。

ピクリ。

かすかに、動いた。
「ティエリア?」
「僕は、よぼよぼのおばあさんですね。百年も経ってしまっては。それでも、愛してくれますか?」
見開かれた石榴の瞳が、虚空を見ていた。
「ああ、よぼよぼのおばあさんだろうが骨になろうが愛している」
「僕も、愛しています」
「愛しているよ、ティエリア。誰でもない、お前さんを」
「愛しています。ニール、あなただけを」

ちらちらちら。

ティエリアの頭の上にいけられた桜が散っていく。
「綺麗な、色。桜色ですか。何年ぶりでしょう。色を目に刻んだのは」
ゆっくりと、ティエリアの手が伸びて、涙を零したままのニールの頬を撫でる。
「はじめまして。あなたの姿を見るのは、はじめてです。僕の王子様」
「おかえり、茨の眠り姫。王子様と、永遠の愛を誓ってくれるか?」
「はい、喜んで」

ちらちらちら。
桜が舞う季節。
桜色の花びらが、舞う季節。

再び出合った二人は、微笑み会う。
光を映さなかった瞳には、しっかりと愛しい人の姿が映っている。
「エメラルドの瞳。綺麗ですね」
「お前さんのガーネットの瞳の方が綺麗だ」

「未来永劫の愛を、あなたに、誓います」
「未来永劫の愛を、お前に、誓う」

「愛してくれてありがとう」
「愛してくれてありがとさん」

唇が重なる。

それは、桜の花が舞う季節。
僕の瞳には、今まで何も映らなかった。
今は、はっきりと映る。
愛しい人の姿が。





「ワンワン!」
「マリア、待ってよ、マリア!!」
ティエリアがスカートの裾を風に翻しながら、リードから離れ、先を先を歩くマリアを追いかける。
「ほーれ」
「うわあ」
ティエリアはニールに抱き上げられると、そのままニールはダッシュでマリアを追い抜いた。
「ワン!」
「マリアの負け〜」
「くすくすくす」
季節は、初夏。
二人は復学し、大学側の取り計らいで大学4回生となった。
アーデ家とストラス家の交流は進み、正式にティエリアとニールの婚約発表がされた。
ニールは、大学卒業とともに、大学院に進み、博士号をとった後は、アーデグループの若き社長として迎えられることが決まっている。ストラトス家の跡は、双子の弟のライルが継ぐこととなった。
ティエリアとニールは、大学卒業と同時に結婚を控えていた。
ティエリアを悩ませたヒリング・ケアは犯罪者の子供を、周囲の反対を押し切り産んだ。その傍には、ライルがいた。ライルは、ヒリング・ケアが産んだ子供とヒリング・ケアを自分の籍に入れた。結婚式はしなかった。はじめはライルも溺愛していた両親が拒んだが、ライルの強い決意を悟り、最後は許しが出た。

「あのときはごめんなさい、ティエリア姉さん」
「ティエリアでいいよ?」
大学のカフェテラスで、ティエリアはヒリング・ケアと紅茶を飲んでいた。
「私、今すごいしあわせなの。ライルが優しくしてくれるから」
「僕も幸せだよ」
ティエリアは微笑んだ。
「ティエリア姉さん、天使みたい」
「大げさだよ」
紅茶を飲むと、後ろから目隠しされた。
「だーれだ!?」
「その声はリジェネ!」
「ばれたか」
「ティエリア、相変わらず天使みたいに綺麗だね。恋は人を変えるか・・・・私は一生独身で過ごす」
「勿体無い。恋はいいよ?」
ティエリアの紅茶をかってにとって、リジェネが飲んだ。
「あー、もうお二人さんみてるだけでお腹一杯だから!」
「ワン!」
「ほら、マリアもそう言ってる」
「そうかな?」
ティエリアの手には、婚約指輪が光っていた。
そのまま三人でしゃべりだす。
大学側は、ヒリング・ケア、リジェネ・レジェッタという二人の秀才の転校を受け入れた。二人とも、同じ大学4回生だ。ヒリング・ケア、リジェネ・レジェッタ、ティエリア・アーデ、それにライルとニールの兄弟も同じ系列の大学院に進むことが決まっていた。
「ティエリア、お待たせー」
ニールが、荷物を片手に手をふって近づいてくる。
「ヒリング、待ったか?」
「いいえ、あなた」
ライルの手の中には、眠ったままの赤子がいた。
「ティエリア?」
「あの・・・ニール」
ティエリアが、顔を紅くしていいにくそうに口をにごらせる。
「どうした?」
「その、あの」
「体調でも悪いのか?」
「主治医の先生が・・・妊娠二ヶ月目だって」
「マジか!すっげー嬉しい!」
「本当ですか!?」
「俺とティエリアの子供だろ!?嬉しいに決まってるじゃないか!名前はなんにしようかなぁ」
ティエリアを抱いてくるくると回る二人を、一人、リジェネが虚しい気持ちで見つめていた。
隣では、ティエリアとニールを真似て、赤子を椅子の上に置いてライルがヒリングを持ち上げてくるくる回っている。
「バカップルどもが」
ずずずー。
アッサムの紅茶を勝手に飲み干していく。
「私は仕事にいきるぞおおおおお」
一人叫ぶリジェネを応援するように、マリアが数回ほえた。

季節は、初夏。
であったのは、冬がまじまったばかりの10月。
はじめての出会いから、それほど月日は経っていないというのに、必然のように愛し合った。
何も映すことのなかったティエリアの瞳は、はっきりと色と形をとらえる。
誰でもない、愛しいニールの姿をくっきりと。

茨の眠り姫は、百年をこえた眠りから、王子様のキスで蘇った。
茨の眠り姫の心は、茨によって深く傷ついていた。
それを救ってくれくれたのは王子様の純粋な愛。
人がもつ、人を愛するという素晴らしい感情。
茨の眠り姫は目覚め、王子様と愛し合った。
茨の眠り姫の心に、もう、茨の棘の傷跡はない。



               僕の瞳には映らない The End
                                         Presented by Masaya Touha
                                        百年もの眠りから目覚めさせたのは愛という感情。
               相手の悲惨な過去を受け入れ、全てを包み込む。
               ただ 深く 愛しているから
               ただ 深く 愛されたいから
               百年の眠りから目覚めたのは、桜が舞う季節
               今はもう、夏だ

「ティエリアー、すっかり夏バテしてんな」
「僕は、熱いのは苦手なんです」
「ほら、アイス」
「ありがとう」
微笑みあう二人。仲良く、手を繋いで。
今はもう、夏だ
セミの声が、聞こえてくる。
二人の手には、婚約指輪がいつまでも光っていた。
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あのー。そのー。
なんといえばいいのか。
いろいろとすみません。
でも、書いてストーリーの大枠を決めずに打ったわりには、パロでは一番いいできかなと思います。
現代パロもこなせる自分にある意味驚きつつ。
肝心のOOはこれの執筆のために明日にまわします。
ヒリング・ケアがライルとくっついてしまったのですが、アニューでもいいやとか思ったのですが、完全に悪役になるのでヒリング・ケアにしてみました。
リジェネだと、顔が似てるから惚れたんじゃないのかとかややこしそうだし。
リジェネとティエリアはいとこです。顔は双子みたいにそっくりなのはそのままで、リジェネも女性になってしまいました。
ちょっと全体的に暗い部分あるのですけど、まぁハッピーエンドで。
桜舞い散る季節、という言葉が好きです。