そのまま、2週間が過ぎた。 久しぶりに晴れ上がった快晴に、マリアが眩しそうに太陽を見つめる。 そのときだった。 ズクリと、心臓が痛んだ。 「痛い・・・・」 マリアは、すぐにニールに助けを求めた。 「大丈夫か、マリア」 「マリア!」 ティエリアが、医者を呼ぼうとするのを、マリアが止めた。 「マリアは、マザーとファザーの子供で幸せでした」 「何言ってるんだ、マリア」 「ニールの言うとおりだよ、マリア」 マリアは、大粒の涙をいくつも溢れさせた。 「晴れて雪が溶けたときが、終焉の合図なの」 「終焉の合図?」 「どういうこと?」 ニールとティエリアは分からないように首を傾げる。 「ファザー、マザー、今、幸せですか?」 「幸せに決まってるだろう」 「マリア、マリアとニールと一緒に暮らせて、僕はとても幸せだよ」 「良かった」 マリアは、心底安堵した。 「ティア、おいで」 ロシアンブルーの猫が、マリアに頬擦りをした。 「ファザーもマザーも愛してる。ティアも。ずっとずっと、愛してる」 「マリア?」 「マリ・・・ア?」 バサリと。 音が鳴った。 広がる白い純白の翼。舞い落ちる羽毛。輝く六枚の翼。 「ファザー、マザー・・・ううん、パパ、ママ。愛しているわ」 少女の背中に広がった翼は、部屋の中いっぱいに広がる。 「イフリール。ありがとう。もう、あなたも限界でしょう」 ゴオオオ。 ニールの内側から、燃える六枚の翼を持った少女が姿を現す。 「俺、は・・・・」 ニールが、震えた。 「俺は、ティエリアを残して、死んだ」 「何を言っているんですか、ニール?これはなに?幻!?」 「遺言で、マリアという名前の子供を作ってくれるように、頼んで、奇跡の子が、生まれた」 ニールは、エメラルドの両目から涙を溢れさせていた。 マリアも泣いている。 状況を把握できなくて、ティエリアは混乱した。 「ニール、マリア?」 イフリールは、少女の姿と格好をしているが、実は少年であった。だが、美しい少女の声で、ニールに語りかける。 「ニール、満足したかい?」 「ああ。こんなにも長い間、ティエリアと、そしてその子供と一緒に過ごせた。もう思い残すことはない」 「何を言っているんですか、ニール」 イフリールの翼が伸びて、ニールとティエリアを包み込んだ。 蘇る記憶。 鮮明になっていく、偽の記憶。 「あ・・・・・」 ティエリアは、石榴の瞳から涙を溢れさせると、ニールを抱きしめた。 「あなたはまた、僕を置いていくというのですか!僕とマリアを!!」 ニールは首を振る。 「元から、俺はもうこの世界に存在してはいけないんだ」 「愛しています、ニール!嫌です、消えないで下さい!」 ニールは、愛しそうにティエリアを抱きしめると、その桜色の唇に口付ける。 「また、お前と出会えてよかった。どんな形であれ、愛し合えてよかった」 「ニール!!!」 ティエリアの悲痛な叫びが、部屋中に響き渡った。 NEXT |