獄炎天使イフリール







「ティエリア、マリーにバーチャル装置を使わせてあげてもいいかな?」
作業中だったティエリアに、アレルヤが声をかけた。
ティエリアは一旦作業の手を止める。
「許可する。僕は手が離せないので、一緒に仮想空間にダイブしてやってくれないか。初心者にいきなりの仮想空間はきついかもしれない」
「ありがとう、ティエリア」
「ああ、戦闘モードのままだった。この前教えたことがあるだろう。適当に・・・そうだな、神話あたりの年代でも選んでダイブしてくれ」
「分かったよ」
アレルヤは、バーチャル装置を自分でいじることはできるが、精密な機械なためどこをどういじればようのかあまりよく分かっていなかった。
とりあえず、年代を神話というのに選んで、マリーを連れてバーチャル装置の中にはいった。
装置を連結させる。
「仮想空間にダイブするのはアロウズの時代にも訓練であったけれど、人工知能までついた、戦闘訓練以外にも使えるバーチャル装置に入るのははじめてだわ。とても楽しみ」
マリーはそういって、仮想空間にダイブした。
同じように、アレルヤも仮想空間にダイブする。

(AIマリアをご利用くださりありがとうございます。神話、NO.0930「獄炎天使イフリール」のフィールドに転送します)

アレルヤとマリーは、手をつないで仮想空間に舞い降りる。
一面は、美しい自然の景色に包まれていた。
天空にはオーロラが舞い、アラスカ地方あたりの風景だった。
雪が降ってくる。
寒さは感じれない。ティエリアが使用者に痛みを感じないように設定しているため、アラスカのような地方の凍死してもおかしくないようなフィールドだと、寒さをかんじることはできなかった。
「オーロラ、はじめて見るわ!なんて綺麗なの」
マリーがアレルヤと手を離して、くるくる廻って天空を見上げる。
「僕も、見るのははじめてだよ」
綺麗に色をかえていく自然の神秘に二人は酔いしれる。

ゴオオオオ。
炎の燃える音。
(獄炎天使イフリールです)

氷の大地に立つ、一人の少女。
瞳は燃え上がるような真紅で、色を黄金、銀色、黄色と変えていく。
背中には、六枚の燃え上がる炎の翼を持っていた。
「綺麗・・・」
マリーがその天使の姿に釘付けになった。
ティエリアのように美しく整った顔は、けれどとても幼いあどけなさを残している。
年齢でたとえると、12、3歳前後だろう。
比類なき美少女は、背に燃える炎の翼を持っていた。
手にした燃える炎の剣を凍った泉につきさして、少女は一人華麗に踊り始める。
その視線を、アレルヤとマリーに向けたまま。
オーロラに包まれながら、炎の翼をもつ少女は歌う。
歌い、踊る。
炎はいろんな色になり、炎そのものもオーロラのようであった。
「我が名は獄炎天使イフリール。上位精霊イフリートの力を飲み込んだセラフィムなり」
踊っていた少女が、そう声を出すと、マリーに向けて手を伸ばす。
マリーは躊躇いながらも、少女の手をとった。
そのまま、ワルツを踊る。
「イフリール。綺麗な名前ね」
「ありがとう、美しき銀の乙女よ。あなたも華麗だ」
銀色の乙女マリーは、アラスカの景色に溶けてしまいそうだ。
銀色の髪をなびかせる。雪に埋葬されることもなく、マリーはイフリールの手をとったまま踊った。アレルヤはそれを静かに見ている。
「アレルヤも踊らない?」
「いや、僕は踊りは下手だから。見ているだけでいいよ」
二人の踊りは、続く。そのまま深い泉の中に景色がかわる。

ボウっと、少女の背中の炎が燃え上がる。
「銀の乙女。名を教えてくれ」
「私はマリーよ」
「そちらの青年は?」
「彼はアレルヤ。私の恋人なの」
ボウッと、背中の青白かった炎が緑がかった。
「我らの父を称える言葉か。良い名だ」
「そうでしょう。私がつけたのよ」

オーロラの隙間をぬって、いくつもの白い羽が降り注ぐ。
背中に六枚の白く輝く翼をもつ天使たちが舞い降り、イリフールの声にあわせて歌いだした。
「なんて綺麗な歌声・・・ティエリアさんにも負けない」
合唱の形をなった歌声は、マリーを包み込む。
イフリールは、にこりと笑んだ。
つられて、マリーも微笑む。
そのまま、イフリールは歌い続ける。
たった二人の観客のために。
そして、歌い終わると他の天使たちがイフリールに跪いた。

「マリー。私は獄炎天使イフリール。もしくはイフリエル。だが、君の考えているように少女ではないよ。私は少年だ」
「まぁ」
マリーが驚きに声をあげる。
比類なき美少女は、少年だった。
どこからどう見ても美少女にしか見えないし、衣服も少女のものだ。
「イフリール様は変わっておられるのです。好んで少女の格好をされる」
跪いていた天使の一人が声をあげた。
「ははははは!私には、この格好がお似合いだろう。この格好で、私は魔王メフィストフェレスを騙しぬき、炎の剣で燃やし尽くした。メフィストフェレスはロリコンだったからな」
そこから、方向がおかしくなってきた。
イフリールが今までの武勇伝を語って聞かせる。その内容に、マリーは笑い転げた。
アレルヤも苦しそうにバンバンと仮想フィールドの地面を叩いていた。
ひとしきり会話したあと、イフリールは背中の炎の翼を羽ばたかせた。
「刻限だ、銀の乙女よ。AIマリア、この二人の帰還ルートを開いてくれ」
(イフリール、相変わらずAIであるというのに)
「ははは、私はお前のように縛られたAIではない。自由を与えられたAIだ」
(AIであることはかわりません。帰還ルートを開きました。次回のご利用をお待ちしております)
アレルヤとマリーは、名残惜しそうにしながらも仮想空間から去っていった。
データとしてのAIマリアの姿が、銀の乙女となってフィールドに現れる。
「マリーという人間は気に入った。AIマリア、お前にそっくりだ。私はお前を愛している」
(AI同士の愛など、何も生み出さないというのに)
「マスターである人間に愛をしても、それも何もうみださないだろう」
(イフリール)
「さて、私はこの仮想フィールドに、ハッキングした奴がばら撒いたウィルスを燃やし尽くすか」
AIマリアは、ナビゲーションを主とするバーチャル装置に備わったAIで、AIイフリールはコンピューター機能も備わっているヴァーチャル装置を守るいわばウィルスソフトのような存在だ。背中の炎の翼で、ハッキングもウィルスも全て焼き尽くす。システムの故障を見つけるのもイフリールの仕事だった。

AIマリアが嬉しそうに、顔を輝かせた。
(マスター、おはようございます)
「ああ、おはよう」
ティエリアが、異常がないか確認するために仮想空間に降りてきたのだ。
(異常はありません、マスター)
「異常はあるぞ。またハッキングされてウィルスをばら撒かれた」
(その程度、この装置にはなんの意味もありません)
「念には念だ。マスター、そういうことで私は全てを燃やし尽くしてくる。では、また」
イフリールが背中の炎の翼を羽ばたかせて消えた。
「分かった、イフリール。AIマリアもご苦労さま」
(いいえ。AIマリアはマスターに従うまでです)
そのまま、ティエリアはガーディアンであるイフリールがウィルスを焼き尽くしたのを確認して、仮想空間を降りた。

「ティエリアさん、イフリールっていう天使すてきでした」
「マリーがすっかり気に入っちゃってさ。また会いたいって。できるかな?」
「ああ、可能だよ。イフリールはただのデータはでない。バーチャル装置に備わったガーディンタイプのAIだ」
「まぁ、AIだったの!」
マリーが驚く。
「よほど、君のことが気に入ったんだろう。イフリールは気難しいので、普通は人前には姿を出さないのだけれどね」
「一緒に踊って、そして唄をうたってくれたわ」
「良かったね、マリー」
「ええ」
「イフリールが気に入ったのなら、普通に仮想世界にダイブすれば勝手に現れるだろう。気まぐれなAIだからな」
「また、次回も利用していいかしら?」
「アレルヤと一緒なら、許可する」
「ありがとう、ティエリアさん!」
マリーはティエリアに抱きついた。

その頃、仮想世界の中では、少女姿のゴスロリ服をきた少年天使イフリールが、全てのウィルスを燃やし尽くしていた。
そのために、ついた名前は獄炎天使イフリール。
イフリールは、人として与えられたAIで、またマリーという銀の乙女に出会いたいと思うのであった。


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寝ているときに夢にでてきた天使、イフリール。なんて綺麗名前なんだと、ついバーチャル装置のガーディアンAIにしてしまいました。炎の翼を持っているなら、ガーディアンタイプだろうと。
一応これでもアレマリ小説(どこが?)