オーロラ









「トレミー、04:00、北北西に向かい進路を固定。外壁作業の修理は完了、これより内壁作業及びエンジンシステムの 修理に入る」
宙を切る手袋に包まれた手。
指揮をとるのはティエリア。
「全員に通達。これより起動エレベーターに向かう。各自、手の空いている者は持ち場につくように。繰り返す、これよりトレミーは 起動エレベーターに向かう。カタロンとの合流は現在のところ未定。アロウズとは接触次第、戦闘に入る可能性もあるので衝撃に気をつけるように」
「ティエリア」
「刹那。もう起きていても大丈夫なのか」
「ああ。傷はほとんど治った」
治療カプセルからでてきた刹那を、ティエリアが気遣う。
「すまない、ずっと傍についてあげていたかったが、ミス・スメラギと交代で指揮をとっている」
刹那の手が伸びて、ティエリアの紫紺の髪をすくう。
「刹那?」
「髪が、虹色に輝いているように見える」
「光の加減だろう。色彩を変えることはない」
「瞳が」
「瞳が?」
「オーロラ色だ」
「何をばかな」
細い手をとり、口付ける。
「無理だけはするな」
「それは、君のことだろう」
刹那に向き直り、ティエリアはサラサラの細かい髪をかきあげると、耳にかける。
細い肢体を、刹那が抱きしめる。
「どうした?」
「治療カプセルに入っている間、ずっと傍にいてくれたそうだな。ありがとう」
「いつも君には世話になっているから。当然のことだ」
氷の華が、穏やかに刹那を見つめる。
凛々しい、と表現してもおかしくはない。毅然とした顔立ちは、中性的で、彼が生きているということさえ忘れてしまいそうな色彩を纏っている。
瞳が、輝く。
ガーネットから、金色に。
太陽のコロナのような鮮烈な金の中に、銀色や翠、蒼、いろんないろが交じり合って、まるでオーロラだ。
「やはり、オーロラの瞳だ」
「おかしなことを言うな、君は」
伏せられた瞳の睫は長く、光に透き通っていた。
桜色の唇が、少しだけ開いている。
艶やかに。
「ティエリアは美しいな」
「褒めても何もでてこないぞ」
クスリと、声もなく笑う。
刹那が、ティエリアの肩に手を置く。 「後で鏡を見てみるといい。瞳の色がとても綺麗だ」
「僕の瞳は色が変わるからな。見飽きた」
「綺麗なのに」
そっと、白い白磁の肌の頬に手を添える。顎に手をかけられる。
「どうした?」
触れるだけのキスがくる。
ティエリアは目を瞬かせた。
黄金の色彩は、オーロラを伴って依然と幻想的に輝いている。
「翼はないんだな」
「ばかなことを。僕は天使ではない」
「天使のように神秘的だと俺は思う。存在も、姿も」
ティエリアは伏せていた瞳で刹那を見つめる。
ぞっとするほどに、美しい瞳。
なんて、綺麗な色。
人がもつべき色ではない。
「ずっと点滴ばっかりだったろう。食事に行こうか」
刹那の手をとる。
「ああ、そうだな」
また、瞳が伏せられる。
睫は長く、光に透き通ってキラキラしている。髪もキラキラ光っている。
オーロラの瞳。
揶揄ではなく、そんな風に色をかえていくのだ、ティエリアの瞳は。
時折、金色からいろんな色に変わる。まるで、宝石のオパールだ。
サラリと、耳にかけられていた髪が零れて音をたてる。紫紺の色彩。人工の光で、虹色に見える。
「ティエリア」
名前を呼ばれると、ティエリアは目を伏せたまま、何か考え込んでいるようだった。
「君が治療カプセルに入っている間、気が気ではなかった」
「心配をかけてすなまい」
「本当に、君は」
桜色の唇が、何かをいいかけて止まった。
僅かに開かれた唇が色っぽく見える。不思議だ。
ティエリアは、幻想的な色彩をまとったまま、刹那と一緒に歩き出すのだった。