地上は嫌い







地上は嫌い。
重力が鬱陶しい。
宇宙が好きだ。いつも宇宙で過ごしている。

ティエリアは何もない場所で躓いた。そのまま、転げるのかとロックオンは心配したが、ティエリアは地面に手をついてくるりと廻った。
パチパチパチ・・・。
ついつい、すぐ隣を歩いていた人が、拍手をする。
「ティエリア、器用だなぁ」
「転ぶなんて、無様な真似はしません」
豹のようにしなやかで俊敏で、猛禽類のように鋭くそして孤高で。
紫紺の髪を風になびかせて、ティエリアは歩く。
すれ違う人間の誰もが振り返る。
氷の結晶の美貌は、損なうということを知らない。女神の化身のようにただ純粋に美しい。
ロックオンを振り返る。
艶やかな表情で、ロックオンを見つめる。
氷そのものの存在であったティエリアが、笑顔を浮かべるようになるには初めて出会って自己紹介をしてから、2年ほど必要だった。
誰にも心を許さない、気高い獅子。
時間をかけて心を開かせていった。
今はもう、昔の機械のような面影は薄い。
確かに戦闘になると昔の面影を色濃く残すが、プライベートの時間になると、怒って笑って泣いて喜んで。
「余所見してると、また躓くぞ」
「そんなにしょちゅうつま・・・・うわ」
何もない地面で、ティエリアはまた躓いた。
ロックオンが手を伸ばすよりも早く、また地面に手をついてくるりと着地する。
運動神経はずばぬけている。
よくもまぁ、バランスを崩した体勢から一回転して綺麗に着地するものだ。服を汚しさえしない。
「地上はこれだから嫌いなんです」
プンプン怒って、ティエリアが足を速める。
ロックオンが、はにかんでティエリアの腕をとった。
「ロックオン?」
ロックオンは、自分が巻いていたマフラーをティエリアの首に巻く。
ティエリアは、巻かれたマフラーを頬にあてる。
「あなたの体温と匂いがする」
恥ずかしい台詞をさらりと口にする。
「あなたは僕の太陽だ」
聞いているロックオンが恥ずかしくなってきた。
ティエリアの言葉に、心臓がドキリとした。
「あーティエリア?」
「今、ドキっとしましたか?」
見上げてくる石榴の瞳。
「この前読んだ小説の台詞です」
「そんなことだろうと思った」
「でも、ロックオン、あなたはほんとうに僕の太陽です」
ティエリアが、耳宛を外してロックオンにつける。
ふわふわな耳宛はティエリアにはかわいくて似合っているが。
ロックオンが返そうとすると、意地悪くティエリアが笑う。
「それを返すなら、僕もこのマフラーを返しますよ。寒いでしょうに」
まだ、季節は冬真っ盛りだ。
雪だってふるときもある。
そっと、背伸びをして、ティエリアがロックオンの頬にキスをした。
「あなたのお陰で、僕は輝ける」
美しい少女の顔で、耳元で追加される。
「あなたは誰にも渡さない」
それは、こちらの台詞だ。
ロックオンは、ティエリアの耳元で囁いた。
「ティエリアも俺のものだ」
交差する、エメラルドとガーネットの瞳。
桜色の唇が、ゆっくりと笑みを浮かべる。
ロックオンが、ゆっくりと笑みを浮かべる。
見詰め合ったあとで、手を繋いぐ。
そのまま、ゆっくりと歩きだす。
「愛しているって言葉は、束縛だと思いませんか?」
「愛してるから、束縛したい、か」
「構いません。あなたになら」
伏せられた長い睫。薔薇色に染まった頬。
反則だと、思う。
これを計算ではなく、まるっきりの天然なのだからたちが悪い。

「俺を何回射落とせば、気がすむんだ?」

「何万回でも」

答えは、綺麗な声と一緒に返ってくる。
こうまできっぱりと断言されると、いっそ心地よい。

「じゃあ、何万回でもお前さんに射落とされるよ。言葉でも、行動でも」