幸せの音色









目が覚めると、アレルヤの穏やかな顔が視界に飛び込んできた。
マリーは、アレルヤの部屋でいろいろと語り合っている間に、いつの間にか眠ってしまったらしい。
そんなマリーを起こさずに、彼女にベッドを譲ったアレルヤは硬いソファーで眠った。
マリーの寝顔を見つめ、その幸福に酔いしれながら。
「あ、ごめんなさい、アレルヤ。私ったら、あなたのベッドを占領してしまったのね」
申し訳なさそうに視線を落とすマリーに、アレルヤは優しい笑みを向けた。
「いいんだよ、マリー。君が傍でいてくれるだけで、僕はとても幸せなんだから」
マリーを取り返すと決めていたアレルヤであったが、こんなにも早くマリーと一緒の時間を過ごせるようになるとは思ってもいなかった。
もっと時間がかかるものと思っていた。
手を伸ばす位置に、いつもマリーがいてくれる。
マリーは、昔、脳量子波の手術で五感を失ってしまったが、ソーマ・ピーリスという名の人格を上から植えつけられたことで、彼女は 失ってしまった五感を取り戻した。
アレルヤには、ソーマの存在も大切なものであった。
たとえ、マリーと人格は違えども、確かにソーマはマリーの一部なのだ。
「アレルヤ、おはよう」
「おはよう、マリー」
二人は、挨拶を交わすと、手を握りあった。
「本当に現実なのね。起きたら、アレルヤが消えてしまいそうな気がして怖かったの」
「僕は、マリーを置いてなんていかないよ」
アレルヤはマリーの傍に寄り添って、彼女を抱きしめた。
マリーも、アレルヤを抱きしめ返す。
「神様に、感謝をしています。もう一度、アレルヤと巡り合えたことに」
「僕もだよ、マリー。君とまた出会えたことに、感謝している」
「もっと、たくさん語り合いましょうね?」
「うん。いっぱい、いっぱい話そう」
「あなたがたとえ戦場に出ていっても、私はあなたの帰りを信じて待っています」
「僕はマリーを残して逝ったりしないよ。ずっと君の傍にいる。この命が果てるまで」
「私もよ、アレルヤ。この命が果てるまで、ずっとあなたの傍にいるわ」
その時、マリーのお腹がぐーという音をたてた。
マリーは赤面した。
「いやだ、私ったら」
「いいんだよ、マリー」
アレルヤが笑った。
「朝食の時間まで、もう少しあるけど、よければ飲むタイプのゼリーでも食べるかい?お腹がすいているんだろう?」
「そんな、アレルヤに悪いわ」
「気にしないで。なんの味がいい?」
マリーから離れて、アレルヤはゼリーを保管している小さな冷蔵庫を開けた。
「そういえば、僕はマリーの好きな食べ物もしらないんだった」
「教えるわ。なんでも、私のことはあなたに教えるわ。だから、アレルヤもなんでも私に教えてちょうだいね?隠し事はなしよ?」
「勿論だよ、マリー」
アレルヤは冷蔵庫の中から、刹那が大好きなアップル味のゼリーを取り出して、マリーに渡した。
「りんご味だけど、嫌いじゃないよね?」
「ええ。大好きよ」
マリーは一口ゼリーを食べると、アレルヤにも食べるように促した。
「あなたも食べて?」
「甘いね」
マリーの手からゼリーを受け取って、中身を口にする。
アレルヤは、そのほどよい甘さを味わった。
「大好きよ、アレルヤ」
マリーが、アレルヤに口付けした。
「うふふ、りんごの味がするわ」
「マリー。これがしたくて、僕にゼリーを?」
「あら、いけなかったかしら?」
無邪気に笑う銀色の髪の乙女は、アレルヤを捕らえて離さない。
「マリー」
二人は、もつれ合うようにベッドに倒れこんだ。
そして、二人顔を会わせてクスリと笑った。
「アレルヤ、大好きよ」
「僕もマリーが大好きだよ」