うなされている刹那の手を、マリナはぎゅっと握り締める。 「刹那、刹那」 声は届かない。 浮き出る汗を、マリナがタオルで吸い取る。 「ごめんなさい、父さん、母さん」 刹那が、うわごとのように繰り返す。 実の父と母を、その手にかけて殺したのだという。 「ソラン」 綺麗な名前だと思う。 刹那という名前も綺麗だけれど、刹那の本名のソランも負けないくらいに綺麗な響きをしていると思う。 「ソラン、許すわ。ソラン。だから、泣かないでちょうだい」 刹那は泣いていない。 だが、その心が泣いている。 ずっとずっと、泣き続けている。 マリナは、刹那の黒髪を撫でる。 クセのついた黒髪は、いろんな方向にはねている。 かたいように見えるが、意外と刹那の髪は柔らかい。 「ソラン。あなたは生きるのよ、ソラン」 何度も刹那の本当の名前を口にする。 マリナくらいしか、ソランと呼ぶものはいないだろうから。 泣かない刹那のかわりに、マリナがなく。 「愛しているわ、ソラン」 うっすらと、ルビーの真紅の瞳があく。 「また、俺は寝ていたのか」 「ソラン」 「その名前は捨てた」 「悲しいことを言わないで。ソラン、綺麗な名前よ」 「俺にとっては、大量虐殺者の名前だ。まぁ、今も大量虐殺者としては変わらないが」 皮肉げに、天井を見上げる。 「泣くな、マリナ」 「あなたが泣かないからよ」 「泣くな」 「ソラン」 |