「刹那、愛しているわ」 マリナは刹那に囁く。 何度でも何度でも。 刹那はベッドから起き上がったまま、しきりに右肩の傷口を気にしていた。 鎮痛剤はもう打った。 痛みはないが、それでも傷口は熱をもっている。 「刹那、愛しているわ」 「マリナ」 刹那の手が伸びる。 「何度でもいうわ。あなたを愛しているわ」 「俺も、マリナを愛している」 何度でも、何度でも。 愛が形として残るのならいいのに。 愛は、形にならない。目に見えない。だから儚く脆いのだ。 人は愛することを止めない。どんなに不幸になろうとも、破滅になろうとも。 「刹那、愛しているの」 マリナのブルーサファイアの目から、大粒の涙が溢れる。 「どうして泣く?」 「何度愛しているといっても、あなたに届かない気がするの」 「ちゃんと、届いている。俺は今、マリナの傍にいる」 「分かっているの。でも、どうして愛は形にならないのかしら」 「愛が形になるのであれば、世界はこんな風にはならない」 刹那の手が伸びて、マリナの長い黒髪を撫でる。 首にさげられたままの黒曜石のペンダントを手にとって、口づける。 「物のように形になるのであれば、愛などいらない」 そんなもの、すぐに飽きられてしまうから。 「刹那」 「名前を、呼んでくれないか。お前の声で、俺の本当の名前を」 「ソラン」 「ソラン、愛しているわ」 「マリナ。俺は、お前に出会えて良かった。お前のお陰で、俺も変わっていく。生きながら」 「私もよ。刹那に出会えて良かった。生きながら、一緒に変わっていくわ」 二人は口付ける。 長い長い、キスを。 |