「まだ動いてはダメよ!」 マリナが叫ぶ。 刹那は構わず、起き上がろうとして痛みに顔をしかめ、右肩をおさえた。 それでも、起き上がろうとする。 それを、そっとマリナの手が止めた。 「だめよ、動いては」 すでに、傷口が開いたのか、包帯には血が滲んでいた。 「ああ、また医師を呼ばなくては」 「必要ない」 「でも」 「いいから」 刹那が、噛み付くようにマリナに口付ける。 「刹那?」 「今は・・・・ただ、傍にいてくれ」 ピジョン・ブラッドのルビーの瞳が収縮する。 刹那はそれきり、無理に起きようとせずに、マリナの手を握った。 「傍に、いてほしい」 「刹那」 「どのみち、もう数時間でここを出る。それまで、傍にいてくれ。今度いつ会えるか分からない」 「ええ、傍にいるわ」 マリナは、刹那の右肩の包帯をかえだした。 血のにじんだガーゼを捨てて、新しいガーゼをあてると器用に包帯を巻いていく。 「すまない。世話をかける」 「もっと甘えてもいいのよ。あなたはがんばりすぎよ。何もかも一人で背負いこんで」 「おれはガンダムマイスターだ。甘えなど、許されない」 「それでも!あなたは一人の人間よ!」 「人間、か」 刹那はテントの天井を見上げた。 「刹那?」 「マリナ。いつか、お前に甘えてもいいか?」 「勿論よ」 白い花が、咲き誇る。 笑顔。 綺麗な綺麗な。 心の苛立ちも葛藤も全て洗い流されそうなほどに、綺麗な。 マリナは清楚な美人だ。ティエリアのような絶世の、というようなものとは種類の違う、温かみをもった、母親のような温もりを宿した女性だ。 刹那は、母親を求めているわけではない。 だが、マリナは時に本当の母親のようだ。 「刹那、寝ていて。少しでも、体を癒して」 「分かった」 刹那は、ベッドに横になる。 マリナの手を握り締めたまま、刹那は幾度目かも分からない浅い眠りについた。 |