はっと、刹那は目を覚ました。 名前を呼ばれたような気がした。 いや、実際には誰にも呼ばれていない。 深い眠りについた刹那は、なぜ自分が目覚めたのか不思議に思うこともなく、自然とその足をティエリアの部屋に向けていた。 毛布を手に。 「あなたの罰は、こんなにも残酷だ。僕は、こんな罰はいらない。いらない。いらない」 扉の前にくると、中で苦しげなティエリアの声が聞こえた。 「あなたのせいで僕は壊れていく。あなたが、どうして。僕は、あなただけは失いたくなかったのに」 扉のロックを解除しようとして、暗号が変えられているのに気づいた。 「うわああああああ」 魂の慟哭に、刹那が眉を寄せる。 早く、早く。 早く。 刹那はハッキングし、強制的に解除すると中に入った。 中に入ると、毛布でティエリアを包むと、そのまま抱き込んだ。 「ああああああ」 壊れかけたティエリアを、現実に戻すように、抱きしめる。 「ティエリア、ティエリア」 「僕は、あなたの罰が」 「ティエリア」 少し乱暴に、その身を揺さぶる。 ガーネットの瞳は、刹那を映していない。 「う」 深く口付けして舌を絡めると、ティエリアが苦しげにうめいた。 毛布で、涙を拭き取る。 「刹那」 「一人で泣くな。俺の傍で泣け」 「僕は」 「いいから」 そのまま抱きしめる。 ティエリアの手から、ロックオンのジャケットをとると、毛布を一度はいで、ティエリアに着せた。 「お前は、今もロックオンの愛に包まれている。それを忘れるな」 「今も」 「そうだ」 「刹那、刹那」 氷の華が、涙を零しながら刹那を抱きしめる。 ぎゅっと、その細い肢体を受け止める。 渡さない。 たとえ、ロックオンであっても、ティエリアの心を攫ってはいかせない。 「傍にずっといるから。泣くなら、俺の傍でいくらでも泣き叫べ」 「うわあああああ」 魂の、慟哭。 その慟哭に気づいて、刹那は覚醒したのだ。 魂の双子を救うために。 「好きだ」 毛布でくるみ、背中を撫でる。 「僕は壊れない。刹那がいるから」 「壊れさせるものか」 少し乱暴に唇を重ねる。 「ん」 ティエリアは、また新しい涙を零した。 「刹那」 涙を拭う。 ティエリアの綺麗なガーネットの瞳は、ちゃんと刹那を映していた。 どうして、彼(彼女)は、ここまで傷ついたままなのだろう。 どんなに傍にいても、傷ついたままだ。 そこまでロックオンを愛しているからなのだと知ってはいても、あまりにも。 あまりにも。 愛は、脆くて儚い。 そして、残酷だ。 魂の慟哭。 だから、俺は彼(彼女)を傍で支えるのだ。 誰でもない、ティエリアがそう望んだのだから。 いや、望まれなくてもそうしていただろう。きっと。 「傍に、いてくれないか」 震える手が伸ばされる。綺麗に伸ばされた桜色の爪。女よりも綺麗な手。 女よりも綺麗な顔。姿、声、形。 誰よりも、綺麗な。 悲しみに顔を歪めてさえも、至高な。 「ちゃんと、傍にいる」 刹那はティエリアを抱きかかえると、自分の部屋に向かった。 そして、ベッドにそっと横たえる。 「刹那」 「傍にいるから、眠れ」 「・・・・・・・君を最初に愛すれば、良かったのだろうか」 いや、そんなことは無理だろう。 ティエリアが、ロックオンを愛したことは、運命ではなく必然であったのだから。 「眠れ」 頭をなで、抱き寄せる。 一緒にベッドに横になる。 ティエリアは涙を零すことをやめ、刹那の首に腕を回す。 どうか、この傷が癒えるように。 せめて、せめて。 ひと時だけでもいいから。 「ありがとう」 ティエリアは、目を閉じた。 刹那も目を閉じる。 そのまま、体温を共有しあう。 失った温もり。傍にあるのは、違う人の温もりだけれど。 もう、失いたくない。 もう、二度と。 ------------------------ あー。 ごっつい痛い子だ! だからうちのティエは痛くて切ない子といわれるんだ(w) |