もう乙女でいいんじゃない?







ティエリアは、雑誌と睨めっこしていた。
手には毛糸と、編まれた何かの物体。
そのまま、うーんうーんとうなりながらも編んでいく。
雑誌を何度もじっと見つめる。
「毛糸さん。素直じゃありませんね。素直に編まれてください」
ティエリアは自室で、そんなことをいっては毛糸を編んでいく。
「毛糸さん、そろそろ観念しましたか?」
あみあみあみ。
ロックオンに隠れて編み始めること数週間。
大分形になってきた。
謎の物体が。
そのまま、休憩にいく。
毛糸と雑誌と編まれた物体は丁寧に隠す。
見つかることのないように。
「おー、ティエリア、どうした?」
ティエリアはにこにこしていた。とても機嫌がよさそうだ。
「何かいいことでもあったのか?」
「はい。ようやく観念してくれました」
何が?とは恐ろしかったので、聞かなかった。
今日のティエリアは、果てしなく乙女だった。
薔薇色の染まった頬、白磁の肌、俯きがちの瞳には長すぎる睫。
どこかほんわりとしたティエリアに、自然とロックオンも表情が和む。
「ロックオン、この間はジャボテンダーさんの破れた部分を縫い直してくれてありがとうございました」
ティエリアが大好きなジャボテンダーの抱き枕は、最近ティエリアが少々乱暴に扱うことがあり、腕の部分が破れてしまった。
ティエリアはジャボテンダーさんが怪我をしたといって、ロックオンのところに泣きながら持ってきた。
ロックオンは、持ち前の器用さで、裁縫も得意だ。丁寧に破れた部分を繕ってあげた。
「ほら、直ったぞ」
「ありがとうございます。良かったですね、ジャボテンダーさん」
「あんまり乱暴に扱うなよ」
「はい、気をつけます」
ジャボテンダー抱き枕を愛しげに抱くティエリア。
そのままティエリアは部屋に帰った。

「ティエリア」
ティエリアの部屋に中に入ってきたロックオンに、ティエリアは笑顔でアッサムの紅茶を出す。
「最近、なんか機嫌がいいな」
「そうですか?気のせいです」
自分も同じようにアッサムの紅茶を飲む。
「ジャボテンダーさんアタック!」
ティエリアは、ジャボテンダーの抱き枕を抱いてロックオンにアタックする。
「おいおい、またジャボテンダー破れるぞ」
「怪我をしては大変です!」
ジャボテンダー抱き枕に、怪我がないかどうかを確かめるティエリア。
IQは180をこえているのに、最近なんかアホになってきたなぁとロックオンは思う。
精神的に未熟な部分がそう見させているのだろう。
見た目よりも幼い行動をたまにとるティエリア。
そのくせ、戦術予報士のミス・スメラギの片腕的存在であり、バーチャル装置のAIマリアやAIイフリートのプログラミングを難なくこなす。人としてのAIは、普通のAIとは違い、そのプログラミングは複雑すぎて、専門家でないと手に負えない。それを簡単にこなすティエリア。
パソコンでもプログラミングを得意とし、敵のマザーコンピューターにハッキングをしかけたりもする。
難解な専門書を読みふけり、論文にまとめたものは、CB研究員の中でも絶賛されている。
どこまでも大人なティエリアと、幼子ようなティエリアと。ロックオンはどっちも大好きだ。
「ロックオン」
ティエリアの頭を撫でるロックオンを、ティエリアが見上げる。
そのまま触れるだけのキスをする。
「地上に行こうか」
「地上に?どうしてですか?」
「この前買えなかったペアリング買いに」
「はい、行きます!」
ティエリアが顔を輝かせる。そのまま二人は、地上に降りた。ガンダムを使って、ヨーロッパに向かった。プライベートなことにガンダムを使うのは禁止であったが、ミス・スメラギも大目に見てくれている。

そのまま、フランスの町に繰り出した。
ファッションの町、パリ。
中世の景色を残す町を歩く。
小さな宝石店を見つけ、そこに入った。
「すまない、ペアリングを買いたいんだ」
「いらっしゃいませ。まずはお客さまの指のサイズをはからせてもらいますね」
そのまま、ロックオン、続いてティエリアと指のサイズをはかる。店員はそれを記憶した。
「どのようなデザインをお求めでしょうか」
「うーん」
ロックオンが、いろんな指輪を見てどれにしようか決めかねている。
「ティエリアは、どれがいい?」
「あれがいいです」
ティエリアが指差したのは、ホワイトゴールドの指輪だった。小さなエメラルドがはめ込まれており、指輪にはすかしで蝶と花が掘り込まれていた。とても丁寧なデザインだ。
「お、いいなこれ」
「こちらでございますね」
店員が手にとって、ロックオンとティエリアに見せる。
「これにするよ」
「ありがとうございます。少々お待ち下さい」
店員が、ケースの下の引き出しから、ロックオンとティエリアの指のサイズにあう指輪を取り出した。
「梱包しますか?」
「いや、はめてく」
「分かりました」
それぞれ、お互いの指にはめあう。
ロックオンはお金を払って、店を出た。
「ロックオンと、ペアリング」
嬉しそうに、ティエリアがはしゃいでいる。
そのまま、フランスの町を探索して、トレミーに戻った。

それから数日後。
ロックオンは、ティエリアに呼び出された。
「ロックオン、これあげます」
毛糸で編まれた謎の物体を受け取ったロックオンは、どう反応すればいいのか分からなかったが、とりあえず満面の笑顔を浮かべた。
「ありがとさん」
それは何かの編みぐるみらしかった。
何の動物なのか、はっきりいって分からない。
首には白のレースのついたリボンがかわいく結われている。
目は、大きめな緑のビーズだった。
「ええと。かわいいな、この熊さん」
多分、熊だろう。
形からそう思った。ティエリアの部屋には熊のでっかいぬいぐるみが置いてあるし、ティエリアは熊のぬいぐるみが好きなようなので、熊だろう、やっぱり。
「それ、熊じゃありません」
ぶすー。
ティエリアがふてくされる。
「僕が編んだんです」
「ええと」
ロックオンは焦った。
何の動物なんだこれは。豚か?いや、猫か?犬?
やべぇ。
まじ、やべぇ。
俺、やべぇ。
わからねぇ。
「どうせ僕は不器用ですよ」
ティエリアは完全にふてくされて、ジャボテンダー抱き枕を抱きしめた。
「ティエリアが自分で編んでくれたんだろ?すっごい嬉しいぜ?」
なでなで。
頭を撫でていると、ティエリアも機嫌をなおしてくれた。
「それ、コアラです」
「そうか、コアラか。かわいいな」
・・・・・・・・・・コアラなのか、これ。
コアラなら、普通は毛糸は灰色だよな。
なんで、ピンクと紫のしましまなんだろう。
ピンクと紫のしましまのコアラの編みぐるみを手に、ロックオンがもう一度お礼をいって、ティエリアの額にキスを落とした。
「その、なんでピンクと紫のしましまなんだ?」
「コアラは、ピンクと紫のしましまなんでしょう?」
「は?」
「この前読んだ小説に、そう書いてありました」
どんな小説を読んだんだ。
「あのな。コアラは灰色だ」
「そんな!」
ティエリアが涙を浮かべる。
「ピンクと紫のしましまじゃないなんて!ありえない!」
いや、むしろピンクと紫のしましまの動物のほうがありえないから。
つっこみはおいといて。
「そっか、ティエリアは本物見たことないもんな。今度動物園いこうか」
「本当ですか?」
「本物見てみたいだろ?」
「はい」
ティエリアはすっかり機嫌を直していた。
「パンダさんは、黄色で黒のしましまなんですよね?」
「いや・・・・」
これ以上つっこむのはよそう。
本物を見たことがないのであれば、仕方ない。
変な小説で読んだものを、そのまま本物とティエリアは受け取ってしまったのだ。
「実物見ればわかるから。それまでの楽しみにとっとこうな?」
「はい」
氷の結晶が、乙女のように可憐に笑う。
もう、いっそティエリアは乙女でいいじゃないかとさえ思う。
無性の中性体だが。
ロックオンは、ピンクと紫でできたどうみてもコアラに見せない編みぐるみを大切に、大切に本棚の特別なスペースに飾るのであった。
それを見たアレルヤと刹那が、笑ったのは仕方のないことなのかもしれない。
でも、コアラ。
ティエリアがコアラっていったから、コアラ。
どう見ても謎の物体にしか見えなかったが。
そして、二人は後日動物園に出かけるのであった。


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タチバナ様のリクエスト、甘甘、ほのぼのロクティエで。
ティエがかわいくアホになっていく・・・乙女なティエリア。
ピンクと紫のしましまのコアラってなんだそれw
タチバナ様へ。どうぞもっていってやってくださいまし。