ラブファントム「接触」







「おい、ティエリア。いい加減起きろ」
「んー」
ティエリアは、自室のベッドでもぞもぞしていた。
低血圧なティエリアは、朝に起きるという行為がとても苦手である。目覚ましをかけても、それを破壊してしまうので、もう目覚ましをかけることはしない。
ロックオンは、一向に目を覚まそうとしないティエリアの布団を毛布ごとはいだ。
そして、まだ眠っている体を乱暴に揺する。
ゆっくりと、石榴の瞳が開かれる。
天井を見上げてから、次にロックオンを見る。
「また、あなたですか。今日は朝にはなんの予定もないはずだ」
「だからって、昼間で惰眠を貪るなんて、お兄さんが許しません」
ティエリアはゆっくりと起き上がる。
寝ぼけて、乱れたシーツに足をとられて体が傾ぐ。
「危ない」
ロックオンが咄嗟に手を差し伸べる。
ドサリと、軽い体が落ちてくる。
そのあまりの細さに、ロックオンが驚く。背は低くないが、その肢体はとても細い。特に腰など折れそうなほどに。全体的に骨格からして華奢なつくりになっているティエリア。
年下であるはずの刹那よりもその体は幼く、筋肉など一欠けらもついていない。
すべすべした白い肌。モデルのように細い体。どんな美少女、美女にも負けない氷の結晶の艶やかな容姿。
天使がいるとしたら、きっとティエリアのような顔をしているだろう。
女神の化身のような存在。
「大丈夫か?」
「大丈夫、です」
そっとロックオンの肩に置かれた手は、とても綺麗だった。
長く伸びた爪は綺麗に整えられ、桜色をしている。
そのまま、ロックオンから離れて体勢を立て直すと、ふらふらと歩きはじめる。
途中で、ゴンと壁にぶつかって、痛いとかうめいている。
クククと、ロックオンは声を押し殺して笑った。
洗面所にくると、ティエリアは冷たい水で顔を洗って・・・・沈没した。
ブクブク。
沈んでいくティエリアの顔を、ロックオンがひきあげる。
「こら、顔洗いながら寝るな!」
「・・・・寝てなんていましぇん」
ぐ。
なんてかわいいんだ。
呂律のまわっていないティエリアは、寝ぼけ眼でまた顔を洗いはじめた。
石鹸でゴシゴシと。
ロックオンでさえ、顔を洗うときは洗顔フォームを使っているというのに、ただの石鹸でティエリアは乱暴に顔を洗う。なんというかまぁ、大雑把というかなんというか。
そして、顔を洗い終わると、ティエリアはぼーっとして、ロックオンの服で顔をふいた。
「まてまて、俺はタオルじゃないぞ!」
「ふぁい?・・・・・ZZZZZZ」
「寝るなあああ!!!」
ティエリアにタオルを渡して顔を拭いてやる。紫紺の髪は、邪魔にならないようにバレッタでとめてあった。
そのバレッタは、これまたかわいいデザインだ。
ティエリアの部屋には、フェルトにもらったという大きな熊のぬいぐるみが置いてあって、なんというのか服もいつもピンクのカーディガンだし、少し少女趣味というか。
なんというか、かわいらしい。
最近、ティエリアを起すのがロックオンの日課になっていた。
放置しておくと、ティエリアは本当に昼に起きてくる。
朝食も食べないティエリアを、ロックオンが起して一緒に朝食をとる。
ティエリアも慣れてしまったのか、朝のロックオンを邪険に扱うことはしなかった。朝食を自分の分までとっといておいてくれるし、何より朝に起こしにきてくれるのはありがたい。
ティエリアとて、昼まで惰眠を貪る自分をどうにかしたいと考えていたのだ。
少し意地の悪い言葉をはくが、ロックオンには感謝していた。
ティエリアは、そのまま歯を磨く。
そして、ブラシで丁寧に髪をすくと、いつもの服装に着替える。
ロックオンがいるというのに、平気で裸になる。
「お前さん、着替える時くらい言ったらどうだ。出て行くから」
「別に、見られても減るものではありません」
ボクサーパンツに、タンクトップ一枚の姿となったティエリアの体のラインが浮き彫りになる。
明らかに、少年のもつべき体を構築していない。
滑らかでなだらかなラインは、女性のように豊かなものはないが、腰はくびれているし、胸は平らのように見えて、少しだけ僅かに膨らんでいる。11、12歳前後の少女の体のラインをしている、ティエリアは。
「あのさ。前から気になってたんだけど、その胸」
「ああ、これですか」
ティエリアは、タントップを脱いだ。
堂々と。
「うわああああ!恥じらいってものがないのか、お前さんには」
「そんなもの、ありませんね」
顔を紅くしながらも、しっかりと見ているロックオンもロックオンだ。
「僕が無性の中性体であることは知っているでしょう。でも、何故か少しだけ胸があるんです。僕は、覚醒する以前の数百年前、イオリアの時代に目覚めて活動していたという記録が残っています。その当時は、女性としての人格が与えられていました。きっと、その名残でしょう」
「女性って」
「今は男性です。新しく与えられた人格です」
まるでアンドロイドのようだ。
ティエリアが、桜色の唇を吊り上げた。
「気味悪いでしょう」
タントクップを着ると、自嘲気味に顔を歪める。
「何度も言っているでしょう。僕は人間ではありません。人間として扱ってもらわなくて結構です」
「ティエリア」
ロックオンは、ティエリアをただ抱きしめた。
ティエリアは困惑していた。
なぜ、このロックオンという人間は自分に深く干渉してくるのだろうか。
ヴェーダは、ティエリアを人間ではないとはっきりと言っていた。なのに、何故人間でない自分に優しく接してくるのか、ティエリアには理解不可能だった。



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