ラブファントム「愛してると囁いて」







「ティエリアー」
「なんですか、うるさいですね」
カタカタカタカタ。
凄まじい速度で、ティエリアがコンピューターにプログラミングを施していく。
「暇だー」
「なら、そこにあるジャボテンダーさんと遊んでいてください」
眼鏡をかけなおし、ティエリアはコンピューターのプログラミングを続ける。
その横顔は、乙女なものではなく凛々しかった。
氷の花。
冷たい美貌だ。
いつもは暖かいのに、仕事になると顔つきが変わる。
プログラミングのバグを確認し、またプログラミングしなおしていく。
「AIイフリール用の、新しい攻撃プログラム・・・・仮想空間でのデータとしては、データも貫く槍をプログラミングしています。仮想空間には、備わっているコンピューターからハッキングが多い。無論セキュリティシステムは強固ですけれど、ガーディアンであるAIイフリールが一番の要ですから。ハッキングされ、勝手に変えられたデータ、つまりはバグを今までAIマリアが直していましたが、AIマリアはナビゲーションAIで居て欲しい。ですので、イフリールに新しくガーディアンとして、バグを取り除く機能を追加しています」
「あーうん、あ、そう」
ロックオンは、言われている言葉の半分も理解できていない。
「イフリールには、炎の剣と炎の翼が攻撃グログラムのデータとして存在していますが、新しい攻撃プログラムのデータとしての武器は侵入者、ハッカーを貫く槍がいいと思いました」
「ああ、うん」
「あと、新しいAIも開発中です。名前はもう決まっています。AIアズラエル。告死天使アズラエルですね。イフリールは巡回型のガーディアンですが、きまぐれなせいで時折仕事をさぼります。その補佐に当たるAIですね。
イフリールと同じようにガーディアンタイプですが、オフェンシングガーディアンです。イフリールもオフェンシングガーディアンですが、ディフェンシングガーディアンでもありますので。完全なる攻撃型のAIガーディアン。アズラエルという名前はぴったりだと思いませんか?」
「確かに、アズラエルって響きは綺麗だな」
あんまり内容を理解できていないロックオンだったが、だいたいの話は分かる。
ようは、この前あったAIイフリールとかいうAIに問題があるため、新しいAIをティエリアは開発中なのだ。
専門家でもないのに、AIを開発するなんて、本当に凄い。
IQ180をこえているというのは伊達ではない。
「休憩しましょうか」
ティエリアが、プログラムを保存して、コンピューターの電源を切った。
「いいのか?」
「だって、あなたがつまらなさそうだ。僕は楽しいですけれど」
ロックオンは、ティエリアのベッドで、ジャボテンダー抱き枕を抱きしめてゴロゴロしていた。
「少し待っててくださいね。紅茶を入れてきます」
ほどなくして戻ってきたティエリアは、アッサムの紅茶をもってきてくれた。
テーブルの上に置いて、二人で飲む。
「AIマリアは、あなたのことが嫌いだそうです」
「え、なんで」
「僕を独り占めするからだそうです」
クスリと、ティエリアが笑う。
「AIだけれど、彼女は人としてのAIです。僕に恋しているんですよ」
ロックオンは、紅茶をテーブルの上に置くと、ティエリアを抱き寄せた。
「ロックオン?」
「ライバルがAIでよかった。本物の女性だったら、ティエリアをかけて争ってた」
ティエリアの頬が、とたんに薔薇色に染まる。
「あなたは」
「愛してるよ、ティエリア」
「僕もです、ロックオン」
触れるだけのキスをする。
「僕の傍にいてくれてありがとう。僕を選んでくれてありがとう。僕を愛してくれてありがとう」
「なんじゃそりゃ」
「あなたにはたくさんの感謝をしています。僕は、あなたのお陰で人間になれた。人間がこんなに素晴らしい生き物だとは思っていませんでした。人間として変わっていける自分に誇りを感じています」
「そうか。ティエリアも、えらいな。もう、自分のことを人間じゃないって言わなくなった」
「だって、あなたが悲しい顔をするから」
「そりゃそうだろう。恋人が、自分は人間じゃないなんて言い出したら、悲しくなるぜ、普通」
「あなたの傍に、ずっといたいです」
「ずっと傍にいるさ」
「約束してくださいね」
「ああ、約束する」
キスをする。
紅茶の味がした。
ティエリアは、石榴の瞳を伏せた。

本当は、分かっていたんだ。
そのときに。
この幸せは、長くは続かないと。

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