トレミーに戻ってきたティエリア。 体のあちこちに、あざや火傷があった。手足の腱は切られ、生々しいまでに男に体を弄ばれた痕が残っている。 顔だけは綺麗なままだ。 髪は、ざんばらに切られていた。 背中には、鞭で打たれたような痕がいくつもある。 娼館にいた女の話によると、ティエリアはNO1といっても、普通の商売ではなかったという。いわゆる、危険なタイプの客ばかりを相手させられていたのだという。麻薬も打たれていたそうだ。サディスティックな客が、好んでティエリアを嬲った。 女の話では、店にきた時にすでにティエリアの自我は壊れていた。 話しかけても、虚ろな瞳をしてろくな会話ができなかったという。 それでも、最初はまだ言葉をちゃんと口にしていたという。だが、サディスティックな客を四六時中相手させられ、更に壊れていった。 ティエリアの傷は、再生治療が施され、綺麗に治った。 火傷の痕もあざも鞭の痕も、切られた手足の腱ですら。 でも、その瞳はずっと虚ろなままだった。 ミス・スメラギはティエリアをガンダムマイスターから外した。ただ、回復の可能性をかけて、トレミーからおろすことはせずに、以前のように仲間たちと接触できる環境にはしていた。 ティエリアは、ロックオンの部屋で生活をはじめた。 一人で生活できる最低限の能力はあったが、時折手首や首の動脈を切ろうとするので、目を離すことはできない。実際に、二回もティエリアは手首を切った。処置が早かったので、一命は取り留めた。 あのティエリアが、自分から命を絶とうとするなんて。 トレミーの誰もがショックを隠せないようだった。 「只今、ティエリア」 「ららら〜〜〜」 変わらず、綺麗な声で歌う。大分回復したが、精神的な部分ではあまり変わらなかった。 それでも、保護した直後よりはましになった。 暴れることはなくなったし、自分から命を絶とうとする行為もしなくなった。 その隣には、いつもロックオンの影があった。 「ティエリア、ほら。お前のお気に入りのジャボテンダーさんだぞ」 ロックオンが、ジャボテンダー抱き枕をティエリアの目の前にもってくる。 「ジャボテンダーさん・・・・・」 そっと、ジャボテンダー抱き枕を受け取る。 「そうだ、ジャボテンダーさんだ」 ロックオンの瞳に、希望が湧いてきた。 「俺の名前分かるか?」 「らららら〜〜〜らららら〜〜」 また歌いだす。 ロックオンは、ティエリアの頭を撫でる。 最初は警戒して、噛み付いてきたが、今は大丈夫だ。 「俺が、誰だか分かるか、ティエリア?」 「カナリアを・・・・今日、抱く、人?」 ティエリアの、店での名前はカナリアだった。 カナリアのような綺麗な声で歌うから、カナリア。 本当の名前なんて、誰も知らなかった。 「カナリア、痛いのは嫌。優しくして?鞭は嫌」 涙を浮かべて、ジャボテンダー抱き枕を抱きしめる。 そして、自分から衣服を脱ぎだす。 「そんなことしなくていいから!」 「どうして?カナリア、こうしないと怒られるの。鞭で叩かれるの」 「もう、誰もティエリアを鞭で叩く奴なんていないから!」 「本当?」 「ああ、本当だ、ティエリア」 嬉しそうに、ティエリアが無邪気に笑う。 「ティエリアじゃないよ。僕は、カナリアだよ」 「ティエリア・・・・・・」 ぎゅっと、抱きしめる。 「俺はロックオンっていうんだ。お前を守る人間だ」 「ららら〜らら、らららら〜〜〜」 ティエリアが、また歌いだす。 虚空を見つめる石榴の瞳には、ロックオンは映っていない。 それでも、何度でも繰り返す。 「愛してるよ、ティエリア」 「ららら〜〜ららら〜〜」 「愛してる、ティエリア」 保護していた時から、首にさげたままだったロケットペンダントに、ロックオンはふと手をかける。 「嫌!カナリアからこれ奪わないで!」 途端に、ティエリアが暴れだす。 「奪わないから」 ぎゅっと抱きしめる。 「・・・・本当に?」 「ああ、本当だ」 触れるだけのキスをする。 「カナリアの宝物。今日のお客さん、優しいから、特別に見せてあげる」 パチっと、ロケットペンダンドが音をたてて開く。 「カナリアの・・・・・大切な人。カナリアを捨ててしまったの。でも、好きなの。カナリアの一番大切な人なの」 中には、笑顔で微笑むロックオンの写真が入っていた。 「・・・・・・カナリアは、唄がへたくそだから、この大切な人に捨てられてしまったの。そう、みんなが言ってた。カナリアが綺麗な声で鳴かないからだって。この人は、他のカナリアを手に入れてしまって、僕は捨てられてしまったの。僕もカナリアなのに・・・・・どうしてかなぁ?」 「ティエリア!!」 ロックオンは泣きながらティエリアを抱きしめる。 「ねぇ。どうして泣いているの?・・・・・どこか痛いの?」 「愛している、ティエリア」 「らららら〜〜〜らららら〜〜〜ららら〜〜〜」 また、虚ろな瞳になって歌い出す。 でも、全く言葉が成立していなかったのに、今ではこうして時折会話ができる。 確実に回復している。 ロックオンは諦めない。 ティエリアを、取り戻すんだ。 NEXT |