「ティエリア、ほら、朝食だぞ」 「カナリア・・・・ピーマン嫌い」 ティエリアが、持ってこられた食事を食べながらも、ピーマンをよける。 そんなところは、昔のティエリアと変わっていない。 ドクター・モレノも驚くほどに、精神的にティエリアは回復していった。 奇跡だとさえいわれた。 それほど、自我が壊れていたのだ。 言語もまともに話せないほど狂っていたのに、今ではこうして会話ができるようになった。 全ては、ロックオンの深い愛。 「ピーマンは食べなくていいから」 「カナリア、ぶたれない?食べなくても、ぶたない?」 「残していいから。誰も、お前に暴力を振る奴なんていねぇ」 「うそ。だって、毎日鞭でぶたれるの。カナリアの唄がへたくそだから」 「俺が守るから。ティエリアを、俺が守るから」 ぎゅっと、抱きしめられる。 「ホワイトメロンソーダ・・・・・」 コップに注がれ、中身を飲むと、そう口にした。 「分かるのか?」 「カナリア、これが好きなの」 「そうか。いい子だな」 頭を撫でる。 ロックオンが立ち上がる。 ベッドに腰掛けたティエリアに、その影が伸びた。 ガチャン! 食事の入ったトレイをぶちまけて、ティエリアは叫ぶ。 「いやああああああああああ!痛いのは嫌!許して、許して、許して!」 ベッドの上でちぢこまり、ガタガタと体を奮わせる。 「いやああああああああああああ!!!」 フォークを持って、ティエリアは自分の喉に突き刺そうとする。 すんでのところで、それをロックオンが止めた。 「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーー!」 泣き叫び、暴れる。 大人しくさせようと、手を伸ばすが逆効果だった。 「いやぁ、いやぁあああ!!」 ドクター・モレノが呼ばれ、鎮静剤を打たせた。 そのまま、眠りにつくティエリアの傍で、絶望的な表情のロックオンが涙を零していた。 会話が成り立ち、うまく回復していると思うと、こうして発作的に暴れたり叫んだりして、しまいには自分の命を絶とうとする。 そんな風になってしまう扱いを、二ヶ月もの間ティエリアは受けてきたのだ。 「何があっても、お前を守るから。俺がお前を愛する。どんなに変わったって、お前を愛する」 眠るティエリアの白い頬に手を添える。 ミス・スメラギが、ティエリアをトレミーからおろし、専門の精神病院に入れる手はずを整えていた。 それを、ロックオンが拒否する。 「ティエリアのためなのよ?」 「だめだ、ティエリアはわたさねぇ」 「でも、このままじゃあなたまでダメになってしまうわ」 「そんなことない。俺は大丈夫だ」 「でも・・・・」 話しているところに、ティエリアがやってきた。 発作的に暴れたり、命を絶とうとする行為はたまにあったが、一応はトレミー内であれば部屋からの外出は許されていた。 まるで、昔の記憶をたぐるかのように、ティエリアはトレミーの中を歩き回っては、よくヴァーチェの前にくると、不思議そうに首を傾げていた。 そんなティエリアに、それはティエリアのバーチェだと、いつもロックオンが囁いた。 「・・・・・・・・・・・・・・・カナリアを、殺すの?」 はっと、二人が顔をあげる。 ティエリアに気づいていなかったのだ。 「カナリア・・・・用済みになったら殺されるって、男の人がいってた。カナリアを、殺すの?カナリア、用済み?」 ポロポロと、石榴の瞳からいくつもの涙が溢れて銀の波が頬を伝い落ちる。 「大丈夫だ。俺が、守ってやる。俺が、お前を守ってやる」 「あなたは、誰?」 何度名乗っても、ティエリアはロックオンの名前を聞く。 「俺はロックオン・ストラトス。お前の恋人だ」 「ロックオン」 はじめて、ティエリアが、ロックオンの名前を口にした。 保護して、もう一ヶ月以上が経過していた。 NEXT |