カナリア「カナリアの形見」







そのまましばらく、様子見ということもあって、CB研究所で二週間ほど滞在した。
ティエリアは精神分析にかけられ、異常はもうどこにも見当たらず、元のティエリアであると医師は診断した。

そのまま、トレミーに帰還した。
「おかえり、ティエリア」
「おかえり、ティエリア・アーデ」
「ただいま、刹那、アレルヤ」
ティエリアは、以前のような美しい氷の華のような笑顔で二人に抱きしめられた。
刹那もアレルヤも涙を浮かべていた。
他のクルー全員が泣いていた。
ティエリアは、皆に愛されているのだ。
こんなにも、こんなにも。

「愛しています、ロックオン」
「俺も愛しているよ、ティエリア」
「ロックオン。このロケットペンダント、カナリアの形見です。受け取ってください」
首からロケットペンダントを外し、ロックオンに渡す。
「ああ、大事にする」
ロックオンは、そっと両手で大切にロケットペンダントを受け取った。
このロケットペンダントの中にあるロックオンの写真の笑顔が、カナリアを支えたのだ。
カナリアが、カナリアでいられた理由。
本当の人格を守るために作られた表層人格は、ティエリアの代わりに全ての辛い体験をして、ティエリアの代わりに壊れていった。
「カナリア、愛しています」
ティエリアは、自分が生み出した人格に、深く感謝を捧げる。
「カナリアのお陰で、僕は僕を守れた。僕が僕であれた。全部、カナリアのお陰です」
ティエリアは歌う。
誰でもない、カナリアのために。
ティエリアをロックオンの代わりに守ったカナリアのために。

美しい歌声が響き渡る。
その声は、カナリアと同じ声。
ティエリアは涙を流した。
自分を守って消えてしまったカナリア。
自分の代わりに全ての辛い体験をしたカナリア。
でも、カナリアは幸せだった。ロックオンに愛され、ロックオンを愛したから。
今のティエリアと一緒だ。

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「ジャボテンダーさんアタック!」
「あべし!」
思い切り、ティエリアはジャボテンダーを勢いをつけてロックオンの顔面に何度も何度もばしばしと叩きつける。
「おいおい、ジャボテンダー泣いてるぞ」
「ジャボテンダーさん、ごめんなさい」
ぺこりと、ジャボテンダーに向けて謝るティエリア。
いつもの、おもしろおかしいティエリアだ。
ガンダムの操縦も問題なく、AIのプログラミングやデータ解析も問題はない。

「ロックオン。キスしてください」
「あいよ」
唇に、キスがふる。
「違います。背中に」
「背中?」
ティエリアは上の服を脱いで背中を見せる。瞳を金色に輝かせると、GN粒子の光で翼の紋章が現れる。
「カナリアの翼です」
「そっか」
そっと、肩甲骨にある翼の紋章二つにキスを落とす。
そのまま、二人は抱きしめあって、ベッドにもつれあいながら倒れた。

「ジャボテンダーさんは、15歳になりました。そろそろ、お見合い相手を見つけなければ」
「刹那のジャボテンダーか?」
「いいえ、あのジャボテンダーさんは名前はジャボ美さんで、18歳のジャボ子さんより年上の女性です」
「そ、そうか」
刹那のジャボテンダー抱き枕にまで名前をつけ、年齢設定をしているティエリア。
やはり、おもしろおかしく、かわいらしい。
「熊の熊五郎さんあたりがお似合いでしょうか」
「それって、ティエリアの部屋にあるフェルトからもらったっていうでっかい熊のぬいぐるみのことか?」
「そうです。ロックオンも、ぬいぐるみの言葉が分かるようになってきたのですね!」
キラキラと、期待に目を輝かせられる。
いや、ごめん、分からないから。
実際、ティエリアもぬいぐるみや抱き枕の言葉が分かるわけではないのだが、そこはまぁ愛嬌だ。

ロックオンは、カナリアの形見であるペンダントを首からぶら下げていた。
中には、ロックオンの写真の上から、ティエリアの笑顔の写真が入れてあった。それは、カナリアであった頃のティエリアの写真。カナリアの写真だ。

「カナリアは、今でもあなたを愛しています。ティエリアである僕も、あなたを愛しています」
「両方とも、愛している」
「僕は・・・・・・穢れています。それでも、愛してくれますか?」
記憶は抹消されたとはいえ、自分に起こった出来事はなんとなく理解しているティエリアだ。
「ティエリアは穢れてなんかいない。カナリアも。綺麗なままだ。たとえもしも穢れているとしても、俺はそのまま愛するぜ」
「ロックオン・・・・愛しています」
石榴の瞳から、大粒の波が溢れる。
それを、ロックオンがそっと拭う。



僕、カナリアっていうの。
ロックオンのことが大好きなの。僕を守ってくれるから。
カナリア、痛いのは嫌い。ロックオンが、痛いことからカナリアを守ってくれるの。
カナリアは歌うの。ロックオンのために。
愛しているから。
ロックオンのことだけを記憶して、歌うの。
ロックオンのためだけに歌うの。
カナリアは、幸せ。
ロックオンに愛してもらえたから。
カナリアも、ロックオンを愛しているの。
カナリアのこと、忘れないで?僕は、カナリア。カナリアはティエリアであると同時にティエリアじゃない。ティエリアから生まれたカナリアっていう人格。
カナリアは、ティエリアとは別人。
カナリアは、捨てられたわけじゃなかった。ずっと、ロックオンはカナリアを愛してくれていた。
僕はカナリア。忘れないで?

カナリア。
綺麗な声で歌う鳥。
カナリア。
魂の唄を捧げよう。
誰でもない、あなただけのために。
あなたのことだけを記憶して。
忘れないように、忘れないように。
カナリア。
綺麗な声で歌う鳥。
 

                     カナリア The End 
                                                     Presented by Masaya Touha
                                                  カナリアは歌う。綺麗な声で歌う。
                   誰でもない、ロックオンのためだけに。

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ふいー。
夕飯も食わずに5時から打ち始めて、現在12時です。
メールのレスも拍手コメントのレスもできずに申し訳ないです。
どうしても、形が頭にある間に打っておきたかったんです。
ティエをとてもかわいそうな目にあわせてしまいましたが、全てはカナリアが引き受けていました。
はじめは、カナリアは壊れたティエリアが口にする名前だけだったのですが、ティエリアという人格を守るために作られた表層人格にしました。
カナリアは、ティエリアを守った。ロックオンの代わりに。
そして、ティエリアのために消えてなくなった。
ロックオンはカナリアのことを忘れずに、ティエリアと一緒に愛し続けます。

今度書く長編はシリアスで暗いといってましたが、それが今回の作品です。
タイトルは、はじめは「ナハトクロイツ」ドイツ語で夜と十字架ですね。
途中でカナリアは歌うと勝手にタイピングが進み、エピローグもプロローグも変えました。
題名を、カナリアに変えてよかったと思います。
ここまで読んだ方、お疲れ様でした。
どうか、ティエになんてことを!って怒らないで下さい。
これもまた、創作の一つですので・・・・。