愛していると、届けばいいのにね







「愛しているって届けばいいのにね。ラブファントム。僕は愛の道化師。あなたを愛している、愛している、愛している。愛しているって、あなたに届けばいいのにね」
ティエリアが、刹那のベッドの上で歌う。
「届いているさ。ロックオンに」
「そうだといいな」
綺麗に繕ったお気に入りのジャボテンダー抱き枕を抱きしめるティエリア。
「ジャボテンダーさんも、届いていると思う?」
ジャボテンダーに問いかける。
四年前と変わらず、ティエリアは時折どこか幼い。
ジャボテンダー抱き枕を、ティエリアは放り投げた。
それは、刹那の頭に当たった。
「また破れるぞ、ジャボテンダー」
「怪我をしては大変です」
「怪我はないようだ」
ティエリアにジャボテンダー抱き枕を渡す。
ティエリアは、それを抱きしめていたかと思うと、ベッドに放り投げてパソコンをいじっていた刹那に近づく。
「刹那」
ティエリアは、刹那のシャツを一枚羽織っただけの格好だった。
下に半ズボンをはいているとはいえ、白い太ももに思わず視線がいってしまう。大きくあいた胸からは、僅かに膨らんだ胸さえ見えている。
「誘っているのか?」
「さぁ、どうだろうな」
クスリと、意地悪くティエリアが笑う。
刹那がパソコンの電源を切った。
そして、ティエリアをベッドに押し倒す。
ドサリという音が響く。
ギシリと、二人分の体重でベッドが軋む。
刹那は、ティエリアの着ていたシャツのボタンを留める。
「刹那」
ティエリアが、刹那の背中に手を回す。刹那は、ティエリアに口付けた。
最初は触れるだけ。
次は深く、舌を絡めあう。
「僕は、ロックオンを裏切っているのかな?」
「裏切ってはいないだろう。今でも一番ロックオンのことを愛しているのだろう?」
「勿論だ。刹那よりも愛している。誰よりもロックオンを深く愛している」
「なら、裏切っていることにはならないんじゃないか」
「でも、僕は刹那を愛してしまった。体の関係を持ってしまった」
「後悔しているか?」
「いいや。後悔していない。こうなることを、僕が望んだのだから」
また、刹那とキスをする。
刹那は、ティエリアを抱きしめる。
その体温を確かめるように、ティエリアも刹那を抱きしめる。
二人の愛は、純粋なものではない。
歪んでいる。
互いに、心から愛する存在がいながら、二人は愛し合いそして体の関係まで持ってしまった。
家族の愛であればよかったのだが、二人の愛はそれでは終わらなかった。一線をこえて、体の関係を持ってしまった。いや、互いに二人の間では禁句であった愛を口に出した時から、歪んでいたのかもしれない。
比翼の鳥。
魂の双子。
二人は、ただ寄り添い合い、傍にいられればそれだけで良かった。
それが、刹那の負傷と一時的な脳死状態の事件もあり、二人は体の関係を持つようになった。
「愛してる、愛してる、愛してる。ラブファントム。僕は愛の道化師。愛してると何万回も囁いて。あなたの影だけを追っている。あなたの幻影だけでも掴めたらいいのにね。いいのにね」
ティエリアがまた歌いだす。
題名は「ラブファントム」
「ラブファントム。僕は愛の道化師。あなたに愛していると伝えたかった。言葉だけでもあなたに伝えたかった。あなたはもういない。あなたにはもう届かない。愛していると、言葉だけでもあなたに伝わったらいいのにね。愛してると幾万回も囁いて。あなたの影だけを追って・・・・」
ポロリ。
大きめな石榴の瞳から、涙が零れ落ちる。
それが引き金となって、幾つもの涙がティエリアの白い頬を伝い、銀の波となる。
「あなたに伝えたかった・・・・愛してると・・・あなたに・・・・」
歌声は、やがて嗚咽に変わった。
そんなティエリアを毛布でくるみ、刹那が抱き寄せ、背中を撫でる。
「傍にいるから、好きなだけ泣け」
「・・・・・・っく、ッロックオン、ロックオン!!」
刹那の服をぎゅっと握り締める。
涙は止まらない。

なぁ、ロックオン。
あんたはどうして、ティエリアを置いていってしまったんだ。
ティエリアは、今でもあんたのことをこんなにも愛してる。
あんたのことで、こんなにも傷ついている。
あんたは無責任だ。あんなに愛しておきながら、ティエリアを一人きりにするなんて。
ティエリアがどうなるかくらい、想像できただろうに。なぁ、ロックオン。
あんたから、ティエリアを奪うことはしない。
でも、ティエリアが求めるならティエリアに愛を注ぐし、これからも体の関係だってあるかもしれない。でも、悪いことだとは思わない。ティエリアも俺も互いを求め合っている。
あんたがいなくなったせいだ。全部、とはいわないが、少なくともあんたがいなくなったせいでティエリアはいつまでも涙を零し続けている。
それはロックオン、あんたの責任だ。
俺は、未だにティエリアを悲しみから救えないでいる。
ティエリアはずっとあんたに縛られたままだ。そして、ティエリアもそれを望んでいる。
ロックオン。こんなにも愛されているのに、あんたはどうしてティエリアを一人にしてしまったんだ。あんなにもティエリアを愛しておきながら、どうしてティエリアを一人にしてしまったんだ。
なぁ、ロックオン。
ロックオン。

「刹那。僕を一人にしないで」
ぎゅっと、ティエリアが抱きついてくる。
その細い肢体を抱きしめる。
涙を零し続けるティエリア。
「ティエリア、愛している。好きなだけ泣け。ロックオンを好きなだけ愛し続けろ」
刹那は、ロックオンを愛したティエリアを愛している。
ロックオンをずっと愛してると承知のうえで、ロックオンの存在を認め、奪うことはせずにティエリアを愛する。
それが、刹那の愛し方。
刹那は、ティエリアの桜色の唇に口付ける。
何度も。
やがて落ち着いたのか、ティエリアは泣き止んだ。
「刹那。傍に、ずっといてくれ。ロックオンのように、いなくならないで」
「約束する。ずっと傍にいる。一人にはしない」
「ありがとう」
安堵して、すりよってくる。
ティエリアからは、いつも甘い花の香りがした。
ロックオンがいなくなって壊れかけているところを刹那に見つかってから、ティエリアは刹那を求めだした。それに呼応するかのように、刹那もティエリアを求めた。

俺は、ティエリアを守る。
ロックオン、あんたの分まで。
ロックオン、あんたの分までティエリアを愛する。
あんたの代わりに傍にいる。そう、ティエリアが望んだから。
俺もそうなることを望んだ。
なぁ、ロックオン。あんたは満足か?
俺たちをこんな風にして。
なぁ、ロックオン。
どうして、ティエリアを残していってしまったんだ。あんなにも愛し合っていたのに。

刹那は目を伏せる。
ティエリアと見詰め合う。
そのまま、互いの温もりを感じあうように、抱き合ったまま二人はずっと一緒にいた。
眠りについても、互いを離さない。

俺は、約束したんだ。
ティエリアと。
傍にいると。
ロックオンのように、いなくならないと。
だから、傍にいて寄り添って、愛する。
間違っていても構わない。
俺たちは、これでいいんだ。
俺と、ティエリアは。
魂の双子だから。
歪んでいても構わない。
互いにそう望んでいるから。

「刹那、愛している」
「ティエリア、愛している」
歪んでしまった二人の愛は螺旋を描く。
複雑に、深く絡みあう。
もう、誰にも止められない。

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刹ティエ、ちょっと長めに。
うちのティエと刹那は、互いに愛する相手がいながら愛し合っています。歪んだ愛。
比翼の鳥でありながら、一線をこえてしまった二人。
それが刹那とティエリア。
ロックオンから決してティエリアを奪うことをしない刹那。ロックオンの存在を認めた上でティエリアを愛するのがうちの刹那。
ティエリアは、ロックオンを愛しながら、心と体は別と考える少し冷めた考えを持っています。刹那も愛してしまったティエリア。全ては、ロックオンがいなくなって壊れかけているところを刹那に見つかってからはじまった、二人の世界。深く、愛と表現するだけでは足りない何か。もっと、魂同士で結び合っているような、そんな関係です、うちの刹ティエは。
話としては、ラブファントム書き下ろし番外編の前にくる話。