白い花をあげよう







「おかえりなさい、刹那」
日本の経済特区、東京の家で、マリナは刹那の帰りを待っていた。
CB研究員として、仕事をしている刹那。
ちゃんと、夕方には帰ってくる。
5時にはきっちり帰宅する。寄り道はしない。
買い物をして、そしてマリナの分まで夕食を作る刹那。
「刹那、ジャボテンダーさんどこにいるか知らないか?」
自宅で仕事をすることになったティエリアは、パソコンでの新しい最新型のAI開発のプログラミングをとりあえず終わらせて、二階から降りてくる。
「ジャボテンダーなら、庭にあったぞ」
「ジャボテンダーさん、光合成をしていたのか」
真面目な顔で、庭に出てジャボテンダーを家の中にもってはいる。
白い花が、ジャボテンダーの隣に咲いていた。
思わず、それを摘み取るティエリア。
ジャボテンダーは地面には置かれずに、ビニールシートの上に置かれていた。
「ごめんなさい、ティエリアさん。抱き枕も、ふかふかのお日様の匂いがしたほうが良いと思って、勝手に私が庭に干してしまったんです」
「マリナ姫、問題はない」
刹那に、ティエリアは庭に咲いていた白い花を渡す。
「マリナ姫にあげるといい」
こそりと、耳打ちする。

「マリナ」
「どうしたの、刹那」
「これをやる」
「まぁ、かわいい花」
白い一輪の花を受け取って、マリナはとても嬉しそうに喜んだ。
「ありがとう、刹那」
そのまま、小さな花瓶に水をいれて大切そうに生ける。
「庭に咲いていたのを摘み取ったのだけれど、庭に咲かせていたほうが良かったかな?かわいそうなことをしてしまったかもしれない」
「大丈夫だ。あの花は、多年草でまたすぐに花を咲かす。庭には、そうだな、もっといっぱい花を植えよう」
「それはいいな」
ティエリアが、美しい微笑を浮かべる。
「僕も、花は好きだ。癒される。ジャボテンダーさんも、そう言っている」
「そうか」

「ティエリアさんて、かわいいですね」
「え、そうかな?」
ティエリアが、首を傾げる。
「いつもジャボテンダーさんの抱き枕に話しかけてますよね」
「僕の、親友だから、彼女は。ジャボ子さんって名前なんだ」
「まぁ」
クスクスと、マリナは笑う。
ティエリアの幼い部分を、そのまま素直に受け入れる。
ティエリアは、マリナにとっても不思議な存在だった。
同じ家族であるが、いつもはプログラミングをして大人びた顔でクールなのに、こうやって子供っぽい部分をよく表に出してくる。
そこがまだ愛らしい。
刹那も、そんなティエリアを愛している。
ティエリアは愛されている。
マリナにも、ティエリアにも。

「マリナ、愛している」
「私もよ、刹那」
夕食前の、甘いひと時を二人は過ごす。
その邪魔をせず、ティエリアはジャボテンダーを抱きしめて、TVを見ている。
「ティエリアさん」
「はい?」
「ティエリアさんも愛しているわ」
「俺も、ティエリアを愛している」
「僕も、君たち二人を愛しているよ」
にっこりと、花の妖精のように笑うティエリア。

ロックオンを一番愛しているけれど、家族としてマリナと刹那を愛している。
刹那への愛は、家族としての愛だけでなく、恋愛感情も含んでいるが、それを出すことはしない。
出してしまえば、この幸せな空間はすぐにでも壊れてしまいそうだから。

「ロックオン。僕は、今幸せですよ。こんなにも変わりました。家族ができました」
夜になって、バルコニーに出ると、ティエリアが下限の月を見上げた。
「いつまでも、愛しています」
お星様に願うように、ささやく。

(俺も、愛しているぜ)

ロックオンの言葉が、ティエリアの耳に聞こえた気がした。
ティエリアは微笑む。
いつでも、ロックオンは自分に近くに在るのだから。
魂は、いつでもティエリアを見守っていてくれている。
心の中で、永遠にロックオンは生きている。
愛は、冷めることはない。

ティエリアは、とても嬉しそうに、下限の月を見上げた。
ロックオンの言葉が聞こえた気がするから。

そして、ジャボテンダー抱き枕を抱きしめ、今日も川の字になって、家族として三人は仲良く寝るのであった。