告死天使アズラエルの贈り物(後編)







「僕には・・・・・僕にはできない。ジャボテンダーさんを攻撃することなんて、僕にはできない!!」
ティエリアは首を振った。
「愛しています、ジャボテンダーさん」
「針万本!」
ドガガガガガ。
GNフィールドで攻撃をふさぐが、25匹のジャボテンダーがシャカシャカ手足を動かして、いっせいに「針万本」攻撃をしかけてきた。
降り注ぐ棘のをふさぎきれず、ヴァーチェも大破した。
「ああ・・・・ジャボテンダーさんが25匹もいる・・・・美しい・・・幸せ・・・」
うっとりと、ティエリアはシャカシャカ動くジャボテンダーを熱い眼差しで見つめていた。

(空間を、砂漠フィールドに転送します)
ぱっと、空間が砂漠フィールドに変わる。
サボテンのはえた、荒涼とした大地が広がっている。
シャカシャカシャカ。
ジャボテンダーたちは、群れをなして逃げていった。
(敵、撤退しました)
「ああ・・・・待って、ジャボテンダーさあああんんん」
ティエリアがコックピットからおりて、涙を浮かべながら走り去っていくジャボテンダーを追いかける。
「うふふふあはははは」
ジャボテンダーの一匹が、そんな言葉を出して、ティエリアの前でシャカシャカしている。
「捕まえてごらんなさい」
ジャボテンダーは、つぶらな瞳でティエリアを見つめた後、シャカシャカと逃げ出した。
それを、蝶をおいかける少女のように、必死で追いかけるティエリア。
ガンダムから降りたロックオンと刹那、アレルヤは、涙を浮かべながら笑い転げている。

題名をつけるなら・・・・「ジャボテンダーさんと私、砂漠で捕まえて」

シャカシャカ。
ティエリアは、ジャボテンダーを抱きしめた。
不思議ととげとげは痛くない。
「愛しているわ、ティエリア」
「ジャボテンダーさん!僕も愛しています!」
「針万本!」
ドガガガガガ。
針万本攻撃を受けて、ティエリアは倒れた。
「あははは・・・・ジャボテンダーさんに・・・・攻撃された・・・・もう、思い残すことは何もない」
「死ぬな、ティエリア!」
「ティエリア、しっかりして!」
「ティエリア!」
ロックオン、アレルヤ、刹那がティエリアにかけよって抱き起こす。
「もう、僕はだめだ・・・・・僕は・・・・ジャボテンダーさんの愛が・・・・」
ロックオン、刹那、アレルヤは笑っていた。
ティエリアを抱き起こしながらも、息も絶え絶えだ。
シャカシャカ。
25匹のジャボテンダーが砂漠を走り回っている。

ああ、もうだめだ。
もうだめだ。

ロックオンも、刹那も、アレルヤも思った。
笑いすぎて酸素がたりない。腹がいたい。

(マスター)
甘い美声が響く。
砂漠に倒れこんだティエリアの前に、AIアズラエルが現れる。
にっこり。
女性と見間違うばかりの美貌の青年は、背の黒い翼をバサリと伸ばす。
ゆうに、両方の翼で4メートル以上はあるだろうか。巨大な翼だ。
黒い羽が、ティエリアの顔に舞い落ちた。
まるで黒い雪のように、ふわふわと降ってくる。

(私からの贈り物、気に入ってくれた?)
「君が・・・・敵のモビルアーマーのデータをジャボテンダーさんにしたのか」
(そう。だめだった?)

シャカシャカシャカ。
25匹のジャボテンダーはばらばらに砂漠をかけまわっている。
お互いに針万本攻撃をしかけて遊んでいる。
なんて愛しい姿だろうか。

(マスター!こいつなんとかしてよ!)
ゴウっと、炎のうなる音がした。
イフリールが天空から六枚の炎の翼を羽ばたかせて、笑いすぎて死んでしまったロックオン、刹那、アレルヤのかわりにティエリアを抱き起こした。
(マスターってば!こいつ、ボクの唇を奪ったんだよ!)
イフリールは、以前のように私ということはなく、なじんできたのかプログラミング通りに自分のことをボクというようになっていた。
(イフリール、かわいいね)
アズラエルが、イフリールに近寄る。
シャアアと、牙をたててイフリールは炎の翼でアズラエルを燃やした。
(捕まえた)
アズラエルは、燃やされながらもどこも焦げていない。圧倒的にAIデータとしては、新しく作られたアズラエルのほうが力は上だった。
そのまま、イフリールはまたキスをされた。
(信じられない!ボクは男の子なのに!最低だ!!)
イフリールは、アズラエルにビンタをかますと、羽ばたき去ってしまった。
(かわいいな)
アズラエルが、漆黒の翼を優雅に伸ばす。

(マスター。ジャボテンダーさん、どうだった?)

ティエリアは、シャカシャカ走り回るジャボテンダーたちをうっとりと見つめている。
「グッジョブ!」
ティエリアは、親指をたてた。
ティエリアの人格が崩壊している。
愛しのジャボテンダーさんに、仮想空間で会うということを思いつかなかったティエリア。
アズラエルの贈り物は、ティエリアのハートをわしづかみにした。

戦闘訓練に全くならなかったけれど、ティエリアは幸せだった。
シャカシャカ動くジャボテンダーは、そのままデータとして保存された。
そして、ティエリアは戦闘訓練の前にはきまって、ロックオン、刹那、アレルヤも一緒に強制的に、勝手に空間をこのジャボテンダーマップに転送し、ジャボテンダーと会話を交わしてお茶を飲んだり、手をつないで砂漠をデートしたり・・・・とにかく、ティエリアはジャボテンダーとの愛を、仮想空間で深めていった。25匹もいたジャボテンダーであるが、最終的にティエリアはジャボテンダーを1匹にした。多すぎると、目移りがしてしまってジャボテンダーさんを愛せない。複数交際はダメだ。ジャボテンダーさんの純粋な愛を裏切ってしまう。
アズラエルが勝手にデータをいじったことを、ティエリアは咎めなかった。
マスターであり、自分を生み出してくれたティエリアに贈り物をしてくれたのだ。お陰で、ティエリアはジャボテンダーさんと夢の会話ができるようになった。

「ジャボテンダーさん。今日は、肌の色が綺麗だね」
「あら、分かる?昨日、いっぱい光合成をしたのよ。ファンデーションもエメラルドグリーンにかえたの」
「綺麗だよ、ジャボテンダーさん」
「ティエリアさんも綺麗だわ。天使みたい」
「天使はジャボテンダーさんのほうだよ」
シャカシャカ。手足は高速で動いている。
でも、ティエリアが手を繋ぐと、動きはスローになる。
そのまま、あはははうふふふと、二人で砂漠のオアシスにできた花畑を追いかけあう。

ああ、なんて幸せ。
ジャボテンダーさんと、触れ合い、愛を語り、デートできるなんて。
ジャボテンダーは、はじめは巨大であったが、ティエリアと同じ身長になるように、ティエリアがデータを書き加えた。

「なぁ、ティエリア。俺とジャボテンダーと、どっちを愛してる?」
ロックオンが、愛しげにロックオンの部屋でジャボテンダー抱き枕を抱きしめるティエリアに声をかける。
「二人とも愛しいます」
「どっちか選ぶとしたら?」
その質問に、ティエリアは真剣にうなった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ロックオン、かな?」
たっぷり、一分の沈黙があった。
ロックオンは、まぁ、ティエリアが幸せならいいかぁと、ティエリアの頭を撫でるのであった。


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短編ギャグが人気のようなので(アンケートより)
ギャグのつもりで・・・・。笑えるかは分かりませんが、ほのぼのかな?
新しいAIアズラエルの登場です。長編でも短編でも、AIマリア、AIイフリール、AIアズラエルは今後も登場してきます。