トレミーの食堂で、ティエリアは機嫌がよさそうににこにこしていた。
わざわざ、刹那が日本の東京にある自宅からトレミーに帰るときに、甘いものが大好きなティエリアにと、
ドーナツを買ってきてくれたのだ。
それを、ほんわりと、まわりに花をぽんぽんと咲かせながら、食べるティエリア。
ほんとうに、幸せそうだ。
アッサムの高級な紅茶を飲みながら、少しづつドーナツを食べていく。
男性が食べるにしては上品な食べ方・・・女性が食べるにしても、かわいすぎる食べ方・・・なんというのか、幼子が与えられた菓子を少しづつ食べていくのに似ていた。
こっそりと、その様子を食堂にある観葉植物の陰から、ロックオンが見守っていた。
(うっわ、なんてかわいい食べ方してんだ…!)
見ているこっちまで、幸せになってくる。
「あ、ロックオン?そんなところで何をしているんですか?紅茶を入れますので、隣にどうぞ」
空いている隣の席をさされ、ロックオンは苦笑してしまった。
「あ、いや…、覗き見るつもりじゃなかったんだけどな」
「…そんなに欲しいなら、いってくれたらいいのに。──はい。どうぞ。」
皿に乗っているドーナツを、ロックオンに差し出すティエリア。
「あー、えーと…」
ロックオンの目が泳ぐ。
幸せそうなティエリアを見ていただけであって、ドーナツが欲しかったわけじゃない。しかし、目の前のティエリアは、てっきり自分が食べているドーナツが欲しいのだと思い込んでいる。
「あ、もしかして、こっちの方が欲しかったですか?では、少しですけど、どうぞ」
自分が食べていたドーナツを半分に割って差し出す。
「サンキュ」
ティエリアの好意は無駄にできない。
笑顔でそれを受け取って、食べるロックオン。
「ん、うまい…!」
「たまにはこういう甘いお菓子もいいでしょう?」
「ああ、そうだな」
「刹那が買ってきてくれたんです」
ほわわんと、ティエリアの顔に笑顔が浮かぶ。
あの刹那が、ティエリアに。そういえば、最近の刹那はティエリアと仲がいい。まるで、ティエリアに恋をしているような眼差しを、時折向けてくる。
用心しなければ。お子様とはいえ、恋人のティエリアを渡すわけにはいかない。
ティエリアが浮気するなんてことは100%ないと断言できるほど、あつあつの二人であったが、もしも自分の身に何かあったとき、一番頼りになるのは刹那だろう。
まぁ、自分の身に何か起こるなんて、そんなことないだろうが。こんなにもティエリアを愛しているのだから。一人で置き去りにするなんて、そんな残酷なこと、考えただけで自分が泣きそうだ。
「アッサムの紅茶をどうぞ」
コポコポと、マイセンのカップ(対になっていて、ティエリアが購入した)に、ティーポットで紅茶を注いでいくティエリア。
「なにからなにまで至れり尽くせりだなあ」
「はい、どうぞ」
カップにつがれたアッサムの紅茶を飲む。
「流石、高級品なだけあって美味いなぁ」
「よかったです」
桜が満開のような笑顔を浮かべる。ティエリアは妖精のようだ。人を魅了するニンフか、精霊か・・・。
天使、というのが一番しっくりくる。
無性というティエリアには、性別を持たないとされている天使が一番似合いそうだ。
肩甲骨の上には、天使をイメージして作り上げられたであろう、瞳を金色に輝かせたときにだけ浮かぶ翼の紋章が二つ彫りこまれていた。
「ティエリアは天使だな」
「天使じゃありません。人間ですよ。あなたに恋した人間です」
ドーナツを食べるのを中断して、真顔でそう答えられる。
「そうだな。人間だな。でも、俺にとっちゃ天使みたいなもんだ」
「そうですか?」
「翼は、俺が愛したから溶けてしまった」
「僕の心も、あなたの愛で溶けています」
恥ずかしいことをさらりと言ってのけるロックオンであったが、それに負けないくらい恥ずかしい言葉をティエリアは口にする。
「ドーナツ、もう一個食べていい?」
「ろーなふ、すひなはへ」
ドーナツを食べかけだったティエリアは、ちゃんと発音ができていない。
ロックオンが、ティエリアの桜色の唇に唇を寄せて、ティエリアが食べかけだったドーナツを一口分食べてしまう。
ボン!
「おーおー。真っ赤だな」
火を噴きそうな勢いで、耳まで真っ赤になるティエリア。
「甘い・・・」
ペロリと、ティエリアの唇についた砂糖を舐めとるロックオン。
ティエリアは、石榴色の瞳を伏せる。長い睫が、光にすけて銀色に光り、白い頬に長い影を落とす。
桜色に染まった頬で、上目遣いにロックオンを見る。
「この前みたいに、食べないで下さい・・・・あの後、腰が痛くて起き上がれなかった」
手加減はしたつもりであったが、二人は時折肉体関係をもつ。
少年でも少女でもないティエリア。
無性の中性体というが、体の構造は11、12歳の少女に近い。女性器はもたぬが、男性を受け入れることのできる器官は、一応は備わっている。
女性がもつべき位置とは激しくずれているため、もともとは男性を受け入れるために備わったものでないのは明確であった。はじめは指をいれるだけでも血を流した。
今では、快楽、というものをその体に覚えこまされてしまった。
「食べないで下さいね・・・・食べるなら、ドーナツさんを食べてください」
幼い表情。魅惑的に見えるから、不思議だ。
この天使は、人を堕落させる堕天使かもしれない。
それでもかまわないと、ロックオンは思う。この天使を愛せるのなら。堕ちて、堕ちて、何処までも一緒に堕ちて・・・・。
ティエリアの翼は、人に愛されたせいで光の泡となって、きっと溶けてしまったんだ。
ロックオンは、アッサムの紅茶を飲みながら、紅くなったティエリアの頭をなでなでするのであった。
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タチバナ様の日記より、妄想を拝借。冬葉、自分で小説かけよ、人様の妄想ばかり小説化するな・・・・だってタチバナ様のロクティエ、ういういしくてツボなんだもの!