見上げる。 蒼く蒼く、どこまでも彼方まで広がる青空。 手を伸ばす。 精一杯、精一杯。 それでも、掴めない。 紺碧の青空は、遠すぎて掴むことさえできない。 「何してんだ?」 背伸びをして、天空に向かって手を伸ばすティエリアに、ロックオンがその頭を撫でながら、そっと寄り添う。静かに、隣にいるのが当たり前のように、いつも傍にいてくれるロックオン。 その呼吸が近い。吐息が、混じり合う。 「青空が、掴めたらいいのに」 「なんだ、そんなこと考えてたのか」 「掴めないから、青空はどこまでも彼方まで広がってるんだよ」 ロックオンは、しゃがみこんだかと思うと、ティエリアの足と足の間にいきなり頭を突っ込んだ。 「うわぁ!?」 「ほら、少しだけ青空が近くなっただろう?おっとっと・・・」 バランスを崩して、二人で倒れそうになる。 ロックオンに肩車されたのだ。 「あなたは、いきなり何をするんですか!」 プンスカ怒りながらも、バランスをとってロックオンの頭に手を乗せる。 「体重、相変わらず軽いなぁ」 笑顔のロックオン。 今日のティエリアの服装は、いつものようなユニセックスな服だ。青空のようなマリンブルーのニットセーターに、半そでの蒼のコート、紺色の半ズボン、蒼のニーソに、紺の太ももまであるブーツ。 蒼系統で統一されたティエリアは、青空に溶けてしまいそうだ。 絶対領域の白い太ももがまぶしい。 「絶対領域・・・・」 「あなたは、マニアックだな、時折」 よく、半ズボンをティエリアが着ると、決まってニーソをはいてくれという。 男には、絶対領域はたまらないものらしい。太ももまであるニーソと、半ズボンの間の露出が。一体、誰がはじめに絶対領域と名づけたのだろうか。それはロックオンもティエリアも知らない。 「空は、ただ蒼く・・・・」 肩車されたまま、手を伸ばす。 それでも、青空は掴めない。 ジーワジーワ。 半そでのコートを、肩車され皺になっていたのをずるずると引き出し、背後に回す。 ちょうど、肩車されたロックオンの背後に長い足首まであるコートは流れる。風に、蒼いコートが翻る。 蒼系統で統一したのは、正解だったと思う。 蒼は、ティエリアが好きな色の一つだ。 ジーワジーワ。 季節は初夏。 早めに目覚めた蝉の声がもう聞こえる。 黄金の、海。 背の高い、黄金の海。 太陽が、笑っている。 いくつもの、数え切れない太陽が、黄金が、笑っている。 向日葵の花畑に挟まれながら、肩車をされて歩く。 吹き抜ける風が気持ちいい。 「青空が掴めたらいいのに」 「掴めたら、青空は魅力なくなっちまう。空はただ蒼くあるから、美しいんだ。決して手が届かないから、美しいんだ」 「きっと・・・・・青空は、神様の心。広い広い、エデンの空とおんなじ」 「詩のような言葉を、最近よく口にするな」 「あなたの癖がうつったんです」 「悪いことじゃない」 ティエリアは歌い出す。 空はただ蒼く 空はただ蒼く どんなに手を伸ばしても掴めない 空は広がる 空は広がる 遙か彼方まで無限に広がる エデンの空もきっとこんな青空 海のように澄んで 海のように蒼く 見上げてごらん 綺麗だから きっと心が晴れるよ きっと笑顔になれるよ どんなに手を伸ばしても掴めない だから素敵 こんなにも素敵 世界は蒼いから 地球は蒼いから 空が泣いても また晴れるから 空はただ蒼く 空はただ蒼く 空は広がる 空は広がる 遙か彼方まで無限に広がる 「誰の唄?」 「僕が勝手に作った唄です」 「へぇ。題名はは?」 「空はただ蒼く」 「そのまんまだな。おし、捕まってろよ」 「うわぁ!」 肩車されたまま、ロックオンが走りだす。その頭に、振り落とされることがないように必死でしがみつくティエリア。 「ぜはーぜはー・・・・・お兄さん、24歳だけど、体力限界」 「僕を肩車したまま全力疾走するからですよ」 肩車されたまま、ティエリアは笑う。 向日葵も笑っている。 ほら、なんて素敵。 空はどこまでも蒼いからこんなにも素敵。 ゆっくりと、歩きだす。 何処でもない、ロックオンの家へ。 二人は家族だ。 戦いはまだ終わっていないけれど、きっともう家族だ。 「空は、今日もこんなにも蒼い」 届かないと分かっていても、ティエリアは手を伸ばす。 |