ティエリアを残して、ロックオンは廊下に出た。そこで、じっと部屋の前に蹲っていた刹那と目が合う。 「あんたは・・・・・卑怯だ。あんなに愛し合いながらも、残していくつもりなのか」 まだ幼い少年のあどけなさを残した刹那は、責めるようにロックオンを見つめる。 「もう、決めちまったんだ」 「あんたは!どうして・・・・・!!」 「俺にも、譲れないものがあるのさ」 「ティエリアを、愛しておきながら・・・・今更、そんなことを言うのか!だったら、何故愛した!?」 「愛さずにはいられなかったんだ。ごめんな、刹那。多分、お前に託す形になると思う・・・・・」 「あんたは卑怯だ!優しすぎて、残酷だ!優しいのに、なんでこんなに残酷なんだ!」 刹那は、残されるであろうティエリアの心境を思い、胸が苦しくなった。 そっと、ロックオンに抱きしめられる。 「アレルヤと一緒に、ティエリアを守ってやってくれ」 「それはあんたの仕事のはずだ!放棄するな!愛した途中で、愛を放棄するな!」 「刹那の言葉、すげぇいてぇよ」 「だったら生きろ!!」 「ああ、努力する。・・・・そうだな、俺も絶対に生きる。生き残る。ティエリアを一人になんかしない」 「それでこそ、ロックオン・ストラトスだ」 刹那が、満足そうに少しだけ笑った。 「あ、お前、笑った」 「そうか?」 「刹那でも笑うんだなぁ。お兄さん、なんか嬉しいぜ。ティエリアと並んで笑えば、花が咲く。きっと」 「そんなに笑顔は・・・感情は出さない。そのほうが、楽だから」 「まだ16歳なのに・・・お前も、辛いんだな」 「あんたの家族を・・・俺が殺したようなものだ」 「それは禁句だろ?」 優しいロックオン。 優しすぎる。みんなの兄のような存在であり、母のような存在であり、父のような存在であった。確かに、ただのガンダムマイスターでありながら、四人は家族であった。 かけがえのない、家族。 「いつか、また青空を・・・ティエリアと一緒に見上げるんだ」 「できるさ。あんたになら、絶対にできる」 「そう言ってくれると嬉しいぜ。俺は、愛を途中で放棄しない。最後までティエリアを愛しぬく」 強い決意に溢れた言葉だった。 それが、ロックオンが残した、刹那が聞いたティエリアに関する最期の言葉だった。 -------------------------------------------- 青空に向かって、手を伸ばす。 届かない。 背伸びしても、届かない。 「あの空のように蒼く」 「ロックオン昔が言っていた・・・・いつかまた、一緒にティエリアと青空を見上げるんだと」 刹那が、デッキで歌うティエリアを、静かに見守っていた。 「そうか・・・・」 風に吹かれ、サラサラの紫紺の髪が流れていく。 「俺は、愛を途中で放棄しないと。最後までティエリアを愛しぬくと、強く語っていた」 「その心だけでも・・・・僕は、救われる」 そっと、刹那の隣に寄り添う。 「俺が・・・・守るから。一緒に、空を見上げよう。ずっと・・・一人にはしない」 「君の言葉は、ロックオンの言葉に似ている。信じていいのかどうか、不安になる」 紺碧に澄んだ青空を見上げながら、ティエリアが刹那の手をとった。 「ティエリア?」 「あの人は・・・・愛を、途中で放棄なんてしていない。今も、愛してくれている」 「そうだな。それが、ロックオンの愛し方だ。ずっと、今もティエリアを愛しているだろう」 「君はライルやアレルヤと違って、ロックオンはもう死んだんだと言わないから・・・そこが、大好きだ」 「ティエリアの心の中にロックオンは生きているさ。今も、ずっと」 「僕もそう思う・・・・」 「俺が、ロックオンの代わりになってしまうけれど、お前と一緒に青空を見上げる」 「君も、ライルと同じだ。なぜ、無性などという・・・僕を選ぶ?」 「守られずにはいられないから。惹かれずにはいられないから・・・・理由をしいていうとすると、俺はロックオンからお前のことを託された。ロックオンの意志を、俺は継ぐ」 「不器用だよ、刹那」 「それでも構わない。俺の魂の双子。もう、離さない」 刹那に抱きしめられたまま、あの日ロックオンと一緒に見上げた青空を見上げる。 彼方まで広がって、広がって、広がって。 手を伸ばしても届かない。決して掴むことはできない。 分かっていながらも、手を伸ばす。 「あの空のように蒼く」 ティエリアが、石榴の瞳で天空を見上げる。 刹那も、一緒になって仰ぐ。 「お、こんなとこにいたのか、ティエリア、刹那」 「ライル。どうしてここが分かった?」 ティエリアが不思議そうに首をかしげると、ライルは人懐こい笑みを浮かべた。 「なぁに、お前さんの綺麗な歌声が聞こえてきたんだ」 「そうか」 「届いているさ。兄さんに、絶対に」 「そうだといいな」 ライルも、ティエリア、刹那と一緒になって青空を眺める。 「あの空のように蒼く」 あの日、ロックオンを見上げた青空。 今は、ロックオンはいなくなってしまったけれど。 刹那とライルに支えられ、再びティエリアは青空を見上げる。 あの日のロックオンの笑顔が、眩しくいつまでもティエリアの心の中で輝いていた。 ------------------------------------ うーんと。切ない文章にしようと思ったら・・・こうなった。 果てさて・・・・。刹ティエにライティエな最後。 二人に守られて、支えられていくティエリア。 君は、一人じゃないから。 天国で、そんなティエリアを見つめてロックオンが安堵しています、きっと。 |