「愛しているわ、刹那」 「俺も愛している、マリナ」 東京で暮らし始めた刹那とマリナは、いつものように愛を囁いてキスを交わす。 愛って、深くでこんなにも不思議。 毎日が新鮮。 「刹那・・・少し、髪伸びたわね。切ってあげるわ」 「頼む」 後ろ髪は、肩に届きそうなほどに伸びて、最近うっとうしかった。 そのまま、庭に出た刹那とマリナ。 マリナは鋏を片手に、刹那の伸びた髪を切っていく。 びよよん。 刹那のくせのついた髪を、霧吹きで水をかけて、ブラシでとく。 「刹那の髪って、意外とサラサラなのね」 シャキン、シャキンと切られていく刹那の髪。 髪を切る、ということも思い浮かばなかったので、全体的に肩まで届きそうなほどに伸びてしまった。刹那には、長髪は似合わない。短髪が似合う。 綺麗に切られていく髪。 刹那はその量に、かつらつくれるかも・・・とか、他愛もないことを思っていた。 シャキン、シャキン。 最後にシャギーを入れるように、軽く髪をすかれる。 そうすることで、髪の量が多い刹那の髪は全体的に軽くなる。 「はい、完成よ」 鏡を渡されて、見るが、完璧だった。 マリナは料理の腕は壊滅的だったが、その他の家事はなんでも器用にこなした。 「ふぁぁぁおはよう・・・・」 昼まで惰眠を貪っていたティエリアが、開け放たれた窓から、二人を見つめていた。 「刹那、かっこよくなったぞ」 「そうか」 「ティエリアさんもどう?髪、切らない?大分伸びてしまっているわね」 「いや、遠慮しておく」 髪ゴムで、今日はポニーテールにしていた。 肩を過ぎて、そのまま伸ばされた髪は背中の真ん中くらいまで伸びてしまっている。髪を伸ばす理由は特にない。しいて言うとすると、昔、ロックオンに髪が長いほうが結いがいがあるといわれた言葉に殉じているようなものかもしれない。 刹那とマリナの同棲に、入り込むような形でティエリアは一緒に住んでいる。 マリナはティエリアを家族として受け入れ、愛してくれた。同じように、ティエリアもマリナを家族として愛していた。刹那の籍に入れられ、ティエリアは養子、ということに表向きはなっているが、刹那が未だにティエリアに恋愛感情を抱き、マリナがいないときには、体の関係はないものの、家族の愛ではない、恋愛感情の愛をさして「愛している」と囁かれる。 ティエリアは、素直にその愛を受け入れることができない。 刹那は、マリナを愛している。そして、ティエリアも、同じくらいに。 いや、もしかしたらティエリアのほうをより愛しているのかもしれない。長い戦争を乗り切ってきた二人は魂の双子、愛よりも深い絆で結ばれていた。 「ティエリアさんの今日の髪飾り、かわいいですね」 「これは・・・昔、恋人が買ってくれたものです」 「そうですか」 プラチナに、花形の翡翠をはめこんだ髪飾りをティエリアはしていた。 平和が戻り、また昔のように、懐かしむようにロックオンが買い与えてくれた服をきて、アクセサリーを身につけるティエリア。 戸籍は、男性からすでに女性として変えられている。 ユニセックスな服を着て町に出れば、100%女性に間違われてしつこいナンパを受ける。 自宅でできるプログラミングでAIを開発するのがメインな仕事に、CB研究員として勤めていたティエリアは変えた。 CB研究所にいると、IQ180をこえるティエリアを頼る輩が多すぎるのだ。 頭脳明晰、容姿端麗・・・・神が与えた美貌は、天使のように、女神のように華やかだ。 「ティエリアさんに愛されていた方は、幸せだったでしょうね。今でも、ティエリアさんはこんなにもあの方のことを一途に愛していらっしゃるもの」 微笑ましそうに、マリナが笑う。 そう、あの頃は幸せだった。 でも、今も幸せだ。 愛の形は違うけれど、家族を手に入れた。 「マリナ姫も刹那も、愛しているよ」 「俺もティエリアを愛している」 触れるだけのキスをされる。それに、マリナが驚くことも嫉妬することもない。 大人な女性だと、ティエリアは思う。 薄々、刹那の思いに気づいているだろうに、ティエリアを責めることも追い出すこともしない。ただ、その胸に抱くように、大きな包容力で二人を包み込む。 ともすれが壊れそうな、硝子のような三角関係。 「ロックオン・・・・僕は、幸せだよ」 青空を見上げる。 ライルはアニューと結婚した。刹那は、ティエリアが一人で歩いていこうとするのをとめて、半ば無理やり一緒に歩いている。 ロストエデンから連れ去るように、刹那はティエリアを連れ去っていく。 その手を、しっかり握り締めて。 「マリナ、愛している」 「うふふふ。言われなくても、分かっているわ」 散らかった髪を片付ける。 ティエリアは、マリナの手で、ポニーテールの上から花のレースが特徴的なリボンを結ばれる。 「かわいいですよ、ティエリアさん。私なんかよりかわいいわ」 「そんなことはない」 首を振るティエリア。 ティエリアがブラシと髪ゴムを取り出す。 「あら?どうするのかしら?」 「マリナ姫もせっかく綺麗な絹のような黒髪をもっているんだ。お揃いにしよう」 「あら、嬉しいわ」 そのままポニーテールに結って、同じリボンで結んだ。 「どうかしら、刹那?」 「二人ともかわいい」 マリナが、頬を染める。 「刹那、何度も言っただろう。僕はかわいいのではなく、かっこいいのだ」 説得力のない言葉を口にするティエリア。 ほら。 見ていますか、ロックオン。 僕は、こんなにも幸せです。 家族を手に入れました。 青空を、今日も刹那と一緒に見上げるティエリアであった。 |