だから僕は君を突き放す(後編)







廊下に出たところで、ズキリと体の奥に痛みを感じて、蹲った。
「くそ・・・・この、役立たずが・・・・」
自分の体に叱咤する。

無性の体を、そんな風に扱うからだと、ドクター・モレノが生きていたら辟易した態度をとられそうだった。無性とイノベイターという特殊な体であるが故に、ドクター・モレノには本当にお世話になった。
「ロックオンと体を繋げれるか?」と聞いた時には、スクリーングラスをかけたまま、頭を壁に何度もゴンゴンと打ち付けて、「もっかい言ってみろ?なんだって?」「だから、ロックオンと体の関係をもちたい。この無性の体ででは、それが可能だろうか?」と真面目な顔でそう尋ねると、ドクター・モレノは何度も現実から顔を背けるように、ゴンゴンと、たんこぶができるまで頭を壁に打ちつけていたっけ。
よほど、ティエリアの言葉が衝撃的だったらしい。
回答は「手順を踏めば、可能だろう」というものだった。

クスリと、ティエリアの白皙の美貌に笑みが零れた。
当時のことを思い出しているのだ。

「大丈夫か?」
廊下で蹲っていると、ふわりと大きな体温に包まれた。
そのまま、抱き上げられる。
「ライル。平気だ。おろしてくれ」
「いいや、誰かさんはいつも無茶をして、それこそ倒れるまで無茶をやらかすからな」
「そんなことは」
ない、と言おうとして、この前倒れたばかりであることを思い出す。

そのまま、部屋に運ばれる。
ゆっくりと、ベッドに下ろされて、ティエリアは礼を言った。
「すまない、ライル」
「お前さん・・・・・・刹那に、抱かれたな?」
ギクリと、ティエリアの体が強張った。
「何を・・・ばかなことを」
「首筋とか鎖骨とかに、キスマークがある。油断しすぎだぜ?この私服も、刹那のものだろう」
言葉に詰まった。

「なんで俺じゃだめで、刹那ならいいんだ?」
伸ばされた手を、ついつい叩き落す。
「離せ!」
「なぁ、なんで?」
エメラルドの瞳は、寂しそうだった。
「離せ!君に話すことなど、何もない」

「何もない、・・・・か」

ライルが、そっとティエリアを抱きしめる。
「なんで泣いてるんだ?」
「君が、あなたが・・・・泣かないからだ」
「俺が・・・」
「あなたが、僕のせいで傷ついている。だから、僕はあなたを選ばない。だから僕はあなたを突き放す」
「傷つく、から?」
「そう。不幸な結果しか招かないから」
「なら、刹那とは?」
「それは・・・・・」
ティエリアが沈黙する。

「の、匂いがする」
「何?」
「アニューの、匂いがする」
ライルの体が強張り、腕の中のティエリアを離す。
「なんで、分かった?」
「僕は、嗅覚が人の数十倍にできている・・・・君の体から、アニューがいつも使っているシャンプーの香りがした」

不意打ちだった。

「あなたは、アニューを選んだ。ならば、尚更僕はあなたを突き放す」
「痛い恋愛だと、おもわねぇ?お互いに、傷の舐めあいみたいな・・・・」
「思わない」
即座に、ティエリアは切り捨てた。
「僕は刹那を愛している。この想いは、真実だから。あなたもアニューを愛しているんだろう?その想いが、いつわりだとは思わない。最近、あなたの傍にはいつもアニューがいた」
唇が触れるだけのキスを、ティエリアがした。
「さよなら、ライル。アニューと幸せに」
「さよなら、ティエリア。刹那と、幸せに・・・・・。なぁ。もう、愛は囁かないから。でも、前みたいに傍にいてもいいか?」

ティエリアは、真剣な表情をしていた。
「アニューを捨てないのであれば、構わない。一度愛しておきながら、その愛を放棄しないでのあれば、傍にいても構わない。僕はアニューが好きだ。どこか、懐かしい。アニューを不幸にしたら、許さない」
本当に、許さないというように、強く石榴の瞳が輝く。

「約束する。アニューを捨てたりしない。愛を、途中で放棄したりしない」
「だったら・・・・好きなように、するといい」
「ありがとな」
ライルは、ティエリアの頭を撫でて、自室に戻った。
ティエリアは、廊下に出て、アニューの部屋を訪れる。

「ティエリア?」
「アニュー・・・・・・幸せに」
「ライルったら、ティエリアになにかしたの?」
「違う。別れをした・・・・恋愛感情での愛に、さよならを・・・・」
「ティエリア、その体・・・・・」
アニューが、無性という、天使のようなティエリアの細い体を抱きしめる。
「おかしいか?僕は、ロックオンを愛している。だが、刹那も愛してる」
「おかしくはないわ。でも、不器用な子・・・・」
「それは、アニュー、君もだろう」
「私が?どうして?」

ふと、アニューが止まった。瞳が、ティエリアの時と同じように金色に輝く。
その姿を見ながら、ティエリアは涙を零す。
「アニュー。たとえ君がイノベイターでも・・・その存在が偽りでないと、信じている。その想いが、真実であると・・・アニュー、どうか限られた時間であっても、ライルと幸せに・・・・」
そっと、固まったままのアニューの頬を、白い手が撫でる。

どうしてだろうか。
アニューがイノベイターであると、気づいてしまったのだ。
敵に居所が、どこに隠れていても、まるで内通者がいるようにばれる。
それがアニューのせいであると分かっていても、ティエリアは責めない。
アニューは知らないのだ。自分がイノベイターであると。そして、ただ利用されているだけであると。
アニューを放り出してしまえば、誰がアニューを信じて、傍にいてくれるというのだ。誰が、アニューを愛してくれるというのだ。

「ライル。どうか、最後までアニューを愛しぬけ」

それは、祈りに似ていた。

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刹ティエライティエライアニュ・・・。アニューとティエリアは、仲がそれなりにいい設定。
アニューがイノベイターであると、ティエリアは気づいている。
だが、気づいていながら誰にも教えない。
アニューが孤独になってしまうから。
そんな四角関係、どうですか?(知らんがな)