廊下に出たところで、ズキリと体の奥に痛みを感じて、蹲った。 「くそ・・・・この、役立たずが・・・・」 自分の体に叱咤する。 無性の体を、そんな風に扱うからだと、ドクター・モレノが生きていたら辟易した態度をとられそうだった。無性とイノベイターという特殊な体であるが故に、ドクター・モレノには本当にお世話になった。 「ロックオンと体を繋げれるか?」と聞いた時には、スクリーングラスをかけたまま、頭を壁に何度もゴンゴンと打ち付けて、「もっかい言ってみろ?なんだって?」「だから、ロックオンと体の関係をもちたい。この無性の体ででは、それが可能だろうか?」と真面目な顔でそう尋ねると、ドクター・モレノは何度も現実から顔を背けるように、ゴンゴンと、たんこぶができるまで頭を壁に打ちつけていたっけ。 よほど、ティエリアの言葉が衝撃的だったらしい。 回答は「手順を踏めば、可能だろう」というものだった。 クスリと、ティエリアの白皙の美貌に笑みが零れた。 当時のことを思い出しているのだ。 「大丈夫か?」 廊下で蹲っていると、ふわりと大きな体温に包まれた。 そのまま、抱き上げられる。 「ライル。平気だ。おろしてくれ」 「いいや、誰かさんはいつも無茶をして、それこそ倒れるまで無茶をやらかすからな」 「そんなことは」 ない、と言おうとして、この前倒れたばかりであることを思い出す。 そのまま、部屋に運ばれる。 ゆっくりと、ベッドに下ろされて、ティエリアは礼を言った。 「すまない、ライル」 「お前さん・・・・・・刹那に、抱かれたな?」 ギクリと、ティエリアの体が強張った。 「何を・・・ばかなことを」 「首筋とか鎖骨とかに、キスマークがある。油断しすぎだぜ?この私服も、刹那のものだろう」 言葉に詰まった。 「なんで俺じゃだめで、刹那ならいいんだ?」 伸ばされた手を、ついつい叩き落す。 「離せ!」 「なぁ、なんで?」 エメラルドの瞳は、寂しそうだった。 「離せ!君に話すことなど、何もない」 「何もない、・・・・か」 ライルが、そっとティエリアを抱きしめる。 「なんで泣いてるんだ?」 「君が、あなたが・・・・泣かないからだ」 「俺が・・・」 「あなたが、僕のせいで傷ついている。だから、僕はあなたを選ばない。だから僕はあなたを突き放す」 「傷つく、から?」 「そう。不幸な結果しか招かないから」 「なら、刹那とは?」 「それは・・・・・」 ティエリアが沈黙する。 「の、匂いがする」 「何?」 「アニューの、匂いがする」 ライルの体が強張り、腕の中のティエリアを離す。 「なんで、分かった?」 「僕は、嗅覚が人の数十倍にできている・・・・君の体から、アニューがいつも使っているシャンプーの香りがした」 不意打ちだった。 「あなたは、アニューを選んだ。ならば、尚更僕はあなたを突き放す」 「痛い恋愛だと、おもわねぇ?お互いに、傷の舐めあいみたいな・・・・」 「思わない」 即座に、ティエリアは切り捨てた。 「僕は刹那を愛している。この想いは、真実だから。あなたもアニューを愛しているんだろう?その想いが、いつわりだとは思わない。最近、あなたの傍にはいつもアニューがいた」 唇が触れるだけのキスを、ティエリアがした。 「さよなら、ライル。アニューと幸せに」 「さよなら、ティエリア。刹那と、幸せに・・・・・。なぁ。もう、愛は囁かないから。でも、前みたいに傍にいてもいいか?」 ティエリアは、真剣な表情をしていた。 「アニューを捨てないのであれば、構わない。一度愛しておきながら、その愛を放棄しないでのあれば、傍にいても構わない。僕はアニューが好きだ。どこか、懐かしい。アニューを不幸にしたら、許さない」 本当に、許さないというように、強く石榴の瞳が輝く。 「約束する。アニューを捨てたりしない。愛を、途中で放棄したりしない」 「だったら・・・・好きなように、するといい」 「ありがとな」 ライルは、ティエリアの頭を撫でて、自室に戻った。 ティエリアは、廊下に出て、アニューの部屋を訪れる。 「ティエリア?」 「アニュー・・・・・・幸せに」 「ライルったら、ティエリアになにかしたの?」 「違う。別れをした・・・・恋愛感情での愛に、さよならを・・・・」 「ティエリア、その体・・・・・」 アニューが、無性という、天使のようなティエリアの細い体を抱きしめる。 「おかしいか?僕は、ロックオンを愛している。だが、刹那も愛してる」 「おかしくはないわ。でも、不器用な子・・・・」 「それは、アニュー、君もだろう」 「私が?どうして?」 ふと、アニューが止まった。瞳が、ティエリアの時と同じように金色に輝く。 その姿を見ながら、ティエリアは涙を零す。 「アニュー。たとえ君がイノベイターでも・・・その存在が偽りでないと、信じている。その想いが、真実であると・・・アニュー、どうか限られた時間であっても、ライルと幸せに・・・・」 そっと、固まったままのアニューの頬を、白い手が撫でる。 どうしてだろうか。 アニューがイノベイターであると、気づいてしまったのだ。 敵に居所が、どこに隠れていても、まるで内通者がいるようにばれる。 それがアニューのせいであると分かっていても、ティエリアは責めない。 アニューは知らないのだ。自分がイノベイターであると。そして、ただ利用されているだけであると。 アニューを放り出してしまえば、誰がアニューを信じて、傍にいてくれるというのだ。誰が、アニューを愛してくれるというのだ。 「ライル。どうか、最後までアニューを愛しぬけ」 それは、祈りに似ていた。 -------------------------------------------------- 刹ティエライティエライアニュ・・・。アニューとティエリアは、仲がそれなりにいい設定。 アニューがイノベイターであると、ティエリアは気づいている。 だが、気づいていながら誰にも教えない。 アニューが孤独になってしまうから。 そんな四角関係、どうですか?(知らんがな) |