「あなたは・・・・愛を、途中で放棄したりしませんよね?」 本を読んでいたロックオンの背後から、ティエリアが抱きついた。 「愛を、途中で放棄・・・?」 「そうです」 「なんだか、ティエリアらしい言葉だな」 本にしおりを挟むロックオン。 「そうですか?」 ティエリアが分からない、といった表情で首を傾げる。サラサラと、顔に紫紺の髪がかかる。その髪をかきあげてやる。 「愛を・・・・まるで、ミッションのように言うところが、お前さんらしい」 「愛はミッションではありません」 「分かってる」 「途中で放棄したり、しませんよね?」 「しないさ」 不安がるティエリアを抱き寄せる。 もう何度も体を重ねた。恋人としても、家族としても、お互いに欠かせない存在だ。 「俺が、嘘ついたことあったか?」 「ありません」 「だったら、信用しろ」 「はい、信じます」 疑いもなく、ロックオンの言葉を信じるティエリア。 「あなたが読んでいる本、僕も読みました。その本の中身では、恋人の片割れが最後に死んでしまって・・・・そんなことには、ならないですよね?死も、立派な愛の途中放棄です。ふるより酷い」 「しないよ。ちゃんと生きて、ティエリアの傍にいる」 「絶対に?」 「絶対に」 「では、誓ってください」 ティエリアが目を瞑る。ロックオンは、笑ってティエリアに触れるだけの、誓いのキスをする。 二人の愛の軌跡は、どこまでも深く果てしなく続いていく。 誰にも止められない。 「死も、立派な愛の放棄だと言ったのを、忘れてしまいましたか?」 愛の軌跡は、描かれた途中で止まったままだ。 「あなたは嘘をついた。愛を途中で放棄した。・・・・・・・でも、愛しているんです。こんなにも、こんなにも」 ティエリアは、ロックオンの遺品となった彼の衣服を抱きしめる。 首にした、黒にガーネットをあしらったチョーカーが、ティエリアのかわりに紅い涙を零して影を落とす。 愛の途中放棄。愛の軌跡は、止まったまま、凍りついてしまった。 その時間が動くことを、ティエリアは求めない。 そのまま凍りついて沈んでいくことはなく、ティエリアの心臓に氷の刃は突き立てられたままだ。ゆっくりと、その氷解を、刹那が溶かしていく。 愛を、新しく描く。 何もないキャンバスに、ゼロからはじめる愛の軌跡。もう、途中放棄されないように、心の何処かで捨てられても平気なのだと繰り返す。 その言葉は、ティエリアを守る。 一番辛い体験はもうした。 これ以上傷つくことはないだろう。 あの人の笑顔は、心の中でまだ凍りついたまま、時を止めている。 ティエリアの時間を止めてしまったロックオン。 そんなこと、一番ロックオンが望んでいないのに。 ロックオンのことに関する時間を止めてしまったティエリア。 まるでロストエデン。 そこから攫うように、刹那が手を伸ばして半ば無理やりに連れ出す。 心の氷の刃を溶かすように。 ねぇ。 愛の途中放棄は、もうしないよね? 愛の軌跡は、描かれたまま消されないよね? 誰にでもなく、問いかける。 ティエリアが笑う。 ロックオンの遺品を抱きしめたまま。 涙を零すほうが、まだまし。 「あなたの嘘つき。一番酷い」 笑っていると、呼吸が乱れてきた。 過呼吸になる発作を防ぐために、大きく息を吸い込む。 たまには、詰っても、ロックオンは許してくれるだろう。 「あなたの嘘つき。なんて酷い。僕がこんなにも愛しているとしっていながら・・・・」 ロックオンに向けられた言葉には、けれど棘が含まれていない。 なんて純粋に哀しいのだろうか。 まるで、反対に自分を責めるように、笑う。 この姿を刹那に見られてしまったら、壊れた、と思われるだろう。だけど、ティエリアは壊れてなんかいない。もう飽きるほどに泣きすぎて、笑うしかないのだ。 氷の華が、氷の結晶のような笑顔を零す。 なんて美しくて、哀しい。 これが、求めた愛の結末。 愛はなんて美しく、そして残酷なのか。儚くて脆くて・・・・酷い。 ------------------------- 愛の途中放棄。愛の軌跡。 愛は儚く脆く残酷。 ここらの言葉、冬葉は大好きです。作中にもよく出てくると思います。 綺麗な響きをしているというか、切ない、ただその一言・・・。 甘いロクティエを目指していたのにな。 バレンタインが近づいてきました。 アホなほどに甘いロクティエ打ちたいですね。 長編もそろそろ取り掛からないと。 |