「僕だって、頑張るんだから」 食堂のキッチンをかりて、いそいそとチョコレートを溶かして、型に流していく。 どれもハート型だ。その上から、色鮮やかなチップチョコを乗せる。 ピンクのハート柄のエプロンをしたティエリア。 どうしても、どこまでもピンクが好きなようで、とても可愛らしい。 チョコも普通のもの、ホワイトチョコ、ストロベリーチョコ、バナナチョコと味も豊富にした。 はじめは、チョコレートを直火であぶろうとして、フェルトに止められた。フェルトに、ゼロから手作りのチョコレートの作り方を学んで、一緒に作っていく。 「これでいいのだろうか、フェルト?」 「そうよ。ティエリア、上手くできているわ」 「そうだといいのだが・・・」 ティエリアの表情は、果てしなく乙女になっていた。 ロックオンの前でしかしなかった表情を、時折皆の前でも浮かべるようになってきた。 いい傾向だと思う。 フェルトはロックオンに恋していた。でも相手がティエリアなら、もう負けだと思った。あんなに愛し合う恋人を裂くことなんてできないし、裂きたいとも思わない。 「ロックオンに、早く渡したい」 「ティエリアはせっかちね」 クスクスと、フェルトが笑う。 そのまま、ラッピングをする。 ティエリアは墨と筆を取り出して、綺麗にラッピングされ、リボンがつけれられたその間に、和紙で「ロックオン・ストラトスへ果たし状」と書きこんだものを入れる。 ティエリアの思考はロックオンでもたまに理解不能なので、フェルトはあえてつっこまなかった。 「この和紙と筆と墨は高かったんだ」 いや、誰もそんなこと聞いてないから。 フェルトは、トレミーにいる男全員にギリチョコも配るようで忙しそうだ。 アレルヤと刹那には、とりあえずロックオンよりも小さめのハートのチョコレートを数個いれた袋を渡すことにした。 エプロン姿のまま、トレミーを徘徊するティエリア。 その姿を見たクルーの男たちは、その愛らしさに固まった。 「これをやる、アレルヤ・ハプティズム」 「うん、ありがとう」 かわいいカッコのティエリアに慣れているアレルヤは、笑顔で受け取ってくれた。 よし、この調子だ。 次は刹那のところへいく。 「刹那・F・セイエイ、バレンタインチョコだ」 「あ、ああ・・・」 刹那はしばらく固まったかと思うと、がしっとティエリアの手をとった。 「結婚しよう」 「残念ながら、僕はロックオンと結婚する」 「そうか。気が変わったら、いつでも言ってくれ」 「分かった」 手をふるティエリアは、はてしなく乙女で少女だった。 「落ち着いて・・・落ち着いて・・・」 「よ!」 スーハーと呼吸をしていたら、背後からロックオンに声をかけられて、飛び跳ねた。 「うわぁ!」 「どうしたぁ?こらまたらえらくかわいいカッコして」 にまにまとにやけるロックオン。 「とりあえず、部屋に入れよ」 そのまま、中に案内される。何度も来たことのあるロックオンの部屋なのに、今日はとても緊張する。 バレインタインチョコは後ろ手に隠したままだ。 ロックオンは、手にたくさんのチョコを持っていた。 女性陣から渡されたものだ。分かってはいても、ズキリと胸が痛んだ。 「僕は、何も用事はない」 くるりと踵を返すティエリアの手を、ロックオンが握り締める。 「・・・・・・・・・・離して下さい」 「このチョコ、全部ギリだから。ティエリアが不安になることはなんにもない」 「僕のは・・・・味も、変かもしれない」 「いいから。くれるんだよ?」 「はい・・・・」 観念したのか、ティエリアは隠していたチョコレートをロックオンに渡す。 「食べてもいい?」 「あなたのものですから。ご自由に」 ロックオンは、色鮮やかなストロトベリーチョコを口に入れると、ティエリアにキスをする。 「甘い・・・・」 チョコが口の中で溶けて、その味がティエリアにも伝わった。 そう何回か食べていく。 「残りは、ゆっくり食べるな。美味しかったよ。ありがとさん」 頭を撫でられて、ティエリアは頬を薔薇色に染め上げて、ロックオンを見つめる。 「ところで気になってたんだけど、この果たし状っての何?」 「読めば分かります」 読んでいって、ロックオンの顔が青ざめた。 この前、諜報部員としてある組織のパーティーに男女一組として、ティエリアは女装させられ、無理やり連れていかれたのだ。ユニセックスは服は好きだし、ゴシックロリータが入った服も着る。だが、スカートの下には必ず半ズボンをはいていた。 人工バストまでつけさせられ(Aカップだったけど)、大人のドレスを纏ったティエリアに誰もが魅了された。だが、ティエリアは納得がいかなかった。何故にせもののバストまでつけて、女装する必要があるというのか。結局ミッションはロックオン一人で完遂できた。 そのことを、まだ根にもっているのだ。 ちなみに、刹那も女装して会場に紛れこんでいた。ティエリアほどではないが、刹那の女装も似合っていた。なんというのか、オリエンタルな魅力を感じた。 「女装対決・・・ガンタムマイスター対抗・・・簡便してくれぇ。あのときは悪かった!だから、機嫌直してくれよ、な?」 「ツーン」 「ツンデレできたか・・・」 ロックオンは、ティエリアが作ったチョコを口の中に放り込むと、舌が絡むほどの深いキスをした。 「あふ・・・・」 「そんな格好して・・・・誘ってるって、とってもいいんだな?食っちまうぜ?」 半ズボンのせいで、エプロンから露出された肌が際立つ。ティエリアにはそんな意図は全くなかったのに。 「チョコがあるではありませんか・・・・僕を食べないで」 「両方、食っちまう」 ティエリアが、白い肢体を振るわせた。 「ダメ」 甘い吐息が漏れる。 「ティエリアが誘うから」 「僕は、誘ってなど・・・」 抱き上げられ、ベッドに押し倒される。 チョコを食べ、また口付ける。 チョコにまみれた舌で、首のあたりをなめられる。 「これがいわゆる・・・チョコプレイ?」 「そんな・・・ああ・・・・そんなの、ダメです・・・」 服を脱がし、肌の上にチョコを乗せると、人肌の温度で溶けてくる。それを丁寧に舐めとるロックオン。 「こんな・・・・チョコと一緒に食べるなんて、酷いです」 言葉ではそういっているものの、もっととねだるようにロックオンに縋りつく。 「あああっ」 氷の薔薇が咲いていく。 花びらを散らすことなく、咲いていく姿をロックオンだけが見つめていた。 |