あのときと同じように、勿忘草の押し花をされ、ビニールシートで守れたそれに、メッセージカードを添える。 メッセージの内容は、あの時とは変わっている。 「見届けていてください。僕が歩む道を」 それでも、簡素なものにかわりはなかったが。 そのまま、2月14日というバレンタインの日に、チョコレートもなしで、セラヴィに乗ると宇宙をかける。 コックピットをあけ、メッセージカードと押し花の勿忘草を宇宙に放り投げる。 そう、まるで捨てるように、放り投げるように・・・でも違う。 これは、レクイエム。 今まだ、何処かに漂っているであろうロックオンの遺体への。 魂は、きっと傍にあるから。 そう信じて信じて、何度挫けても立ち上がってきた。 「見届けていてください。僕が歩む道を」 セラヴィから戻り、自室に帰って、窓から宇宙を見る。 ひらひらと、白いメッセージカードにつけた白いリボンが視界を横切った。 「届いている、と、いいたいのですか?」 わざわざ遠くに捧げたのに、なぜかこんなところでティエリアは自分のメッセージカードと出会う。 それは、トレミーの緩やかな飛行にあわせてひらひらと飛んでは、やがて見えなくなってしまった。 (お前のこと、俺も忘れないから) そう、ロックオンが語りかけているようであった。 「勿忘草。命ある限り、あなたのことを忘れません・・・・それが、僕の強さとなる」 刹那はティエリアのことを今日は放置していた。 好きにさせてやりたかったのだ。 メッセージカードを作っているのを見た瞬間に、そう思った。 だから、声はかけなかった。 今でも彼(彼女)はずっとロックオンのことに関して時間を凍りつかせたままだ。 どんなに刹那が溶かしていっても、途中で永久凍土のように溶けない部分がある。そこを無理に溶かそうとは刹那も思わなかった。 ティエリアは着替える。いつもの制服ではく、パジャマに。 そして、深夜零時という時間に、刹那の部屋を訪れる。 「刹那」 「ティエリア?」 刹那が驚いて、ティエリアに毛布を被せる。 「これを、君に」 それは、ティエリアがロックオンに捧げたメッセージカードと同じもの。 あけると、やはり勿忘草の押し花。メッセージカードには「君と歩いていく。僕の傍にいてほしい」これまた、簡潔な文章。 「ティエリア・・・・」 刹那は絶句し、ティエリアの毛布ごと体を攫って、ベッドに押し倒す。 「誘っているのか?」 「何故だろうな。僕のすることすること、ロックオンもいつも誘っているのか?と聞いてきた」 「それは・・・・」 無意識すぎるのだ。 頬を染めたり、目を伏せたり、上目遣いで見てきたり・・・とにかく、男というものを煽る方法を知らないくせにティエリアは煽り方を無意識のうちに仕草で出す。だから、余計に始末が悪い。 白い手で、唇をなぞられる。 「僕には・・・この身一つしかない。それでも、傍にいてくれるか?」 「愚問だろう。俺にそれを尋ねるのか?」 「刹那・・・・」 深く唇を重ねられる。 勿忘草。 どうか、私を忘れないで。 永遠に。 |