「ワスレナグサ、ワスレナグサ」 「そうですよ、ハロさん」 「ワタシヲワスレナイデ、ワタシヲワスレナイデ」 「上手ですね、ハロさん」 ブリーフィングルームから、お気に入りの忘れな草の鉢植えをとってきて、テーブルの上に置く。 遺伝子操作された花々は、長く咲き続けることができる。 まるで、ティエリア。 水色の小さな花を咲かせるその花は、遺伝子操作をうけて可憐に咲き続ける。 遺伝子操作を受けて、老いることのないティエリアは、一度見たら忘れられない存在。 まるでティエリアは、忘れな草。 ピョンピョン跳ねるハロを、ティエリアが追いかける。 頭には、水色と蒼の忘れな草の髪飾り。 ティエリアのベッドの上で頬杖をついて、そんな様子をのんびりと見守るロックオン。 ティエリアとハロのいる姿は平和でかわいくて心が和む。 「ティエリアは、まるで忘れな草だなぁ」 「そうですか?」 「ティエリア、ワスレナグサ、ティエリア、ワスレナグサ」 ハロを捕まえたティエリアが、首を傾げる。 「今度、忘れな草の植え鉢じゃなくって、花畑見に行こうか」 「本当ですか?」 ティエリアが、身を乗り出してくる。 そのはしゃぎぶりに、ロックオンが苦笑する。 「ああ。アイルランドにある植物園に、忘れな草の花畑のスペースがあったんだ。思い出した」 「それはとても素敵です」 うるうると、目を潤ませるティエリア。 「できれば自然の見せてやりたいんだけど・・・・今は季節じゃないからなぁ。いっつも俺が自然で見ていた花畑は小さいものだったし、もう建物がたったりして、消えちまった」 「それはとても哀しいです・・・」 まるで自分のことのように、涙さえ滲ませる。 そっと、ジャボテンダー抱き枕を抱きしめるティエリア。 「忘れな草さん、きっと痛かったでしょうに」 「まぁ、植物にも感情があるっていわれてるからな。音楽を聞かせたりすると、普通より成長速度が違ったり・・・・」 「明日、その植物園いこっか」 「え。そんな急でもいいのですか?」 「いいってことよ。ティエリアを喜ばせたい」 「アシタイッショ、アシタイッショ、ハロモイッショ、ハロモイッショ」 「ハロさんも連れていっていいですか?」 「ああ、いいぜ」 こうして、ロックオンとティエリアはアイルランドにある植物園の、忘れな草の花畑へとやってきた。 「わぁ、なんて綺麗。地面が空だ」 くるくるまわるティエリアをおいかけるハロ。 「ミズイロ、ミズイロ」 「けっこうなスペースあるから」 「あ。でも、踏みつけてしまっては・・・・花が・・・・」 「平気だって。どれも遺伝子操作で強くされてるから、根っこからひきぬくくらいしないと枯れやしない」 「それを聞いて安心しました」 「ハロモアンシン、ハロモアンシン」 まるで、子供のように無邪気に微笑みくるくる回るティエリア。 ユニセックスな服を着せたが、それも水色で統一した。頭には、二つの忘れな草の髪飾り。 天井は特殊加工の硝子ばりで、空の蒼がそのまま見える。 水色に溶け込んでいきそうなティエリア。 「どうした?」 「くるくるまわりすぎて、気分が・・・・」 「はっはは。はしゃぎすぎだぜ」 ティエリアは、花畑に寝転がった。忘れな草に囲まれて、嬉しそうだ。 この花畑の展示スペースは特別料金を払ってかりたので、二人きりだ。いや、ハロも一緒だ。 「どうして、忘れな草の花はこんなにも小さいのでしょうか?」 「そりゃ、大きかったら忘れないからだろ。小さいから、忘れてしまいそうで・・・・だから、忘れな草」 「僕と同じ考えをするんですね」 「一緒か」 ティエリアの頭を撫でる。 ロックオンも、花畑に寝そべった。 水色に囲まれる。 ティエリアは、本当に溶けていきそうだ。 精霊のように。 「この花畑の空間・・・名前あるんだぜ?」 「なんですか?」 「あなたともう一度出会う、忘れな草」 「へぇ・・・・なんか、ロマンチックですね」 「枯れても・・・・多年草だから、また季節がくれば咲く。もう一度出会うために、何年でも咲き続ける」 「もう一度出会うために、何年でも咲き続ける・・・・・」 ティエリアとロックオンは、花畑でしばしののどかな時間を過ごす。 「ワスレナグサ、ワスレナグサ」 ハロが、水色の空間を跳ね回る。 忘れな草。 あなたともう一度出会うために、また花をつける。 |