スキーでひゃっほい3







日が暮れた。
ロッジに先に帰ったはずのティエリアの姿はどこにもなかった。
「おい、まだ帰ってないぞ」
「こっちにもいないよ」
「まさか、遭難か?」

ロックオン、アレルヤ、刹那が顔を見合わせる。
ロッジで泊まることになっていたのだが、もしかしてどこかで遭難してしまったのか。ロッジは雪原からそう遠くない場所にあるので、遭難するようなほどの距離はないはずなのだが。
ロックオンが、まずは落ち着くところからはじめる。

「ティエリアもバカじゃない。途中で遭難したって分かれば、むやみに動き回らずに救助を待つはずだ」
CBの人員を派遣するにも、みんな年末休暇で、今いるのはロックオン、アレルヤ、刹那の三人だけだ。
「俺がまずは足跡をもとに探してくるから、次の日になっても帰ってこなかったら、王留美のところに連絡してくれ。人を派遣してくれるはずだ」
「僕もいくよ」
「いや、俺でいい。ティエリアを守るってきめたから」
「ロックオン」
アレルヤが感動していた。

「携帯は?」
刹那が、持っていた携帯をピポペと押して、ティエリアにつなげる。
「あ、刹那?」
「ティエリア。今どこにいる?」

これから愛の絆を深めるような展開になりそうだったのだが、そんなこと刹那が許さなかった。だって、携帯あるじゃんか。携帯には探知機もあるし、いざとなればそれを調べれば場所を特定できるようになっている。
ロックオンってば、愛に走りすぎ。
刹那は、ロックオンのガンプラをエサにされた釣竿に、釣られてしまったのを根に持っていた。

「ああ、雪原から2キロ離れたデイジーさんち。アレルヤが無断で電源を拝借したことのお詫びをしていたら、どうやら僕のサークルの同人誌をよく買ってくれる常連さんみたいで。つい話こんでしまった。心配をかけてすまない」
「こんな展開だろうと思った」
刹那は、携帯をロックオンに渡した。

「こら、ティエリア。デイジーさんに謝ったのなら、早く帰ってきなさい。もう日が暮れてるぞ」
「ああ、ロックオン。ちなみに、デイジーさんはガンダムOOのロックオン受けが好きだそうだ」
ロックオンは、携帯を落とした。そして、ガクブルとふるえてすみっこで小さくなっている。同人誌は鬼門だ。自分が受けの同人誌なんて、話に聞いただけで恐ろしい。

「あ、デイジーさん。ごめんねー、勝手に電源拝借しちゃって。うん、うん、分かったよ。デイジーさん、新作の絵本楽しみにしてるから。帰りに、新作の本にサインちょうだい」
アレルヤは、にこやかにデイジーさんと話をしている。
デイジーさんは、アイルランドのこのスキー場付近に住む、一人暮らしの女性で、絵本作家としてなかなかに有名だった。かわいいものが好きなアレルヤは、何度もファンレターを出し、ついにはヨーロッパで何度か会ったこともある。いわゆる、お友達であった。アレルヤがCBの一人だということも知っている。

恐るべし、デイジーさん。

というか、お友達だからって自分がCBのガンダムマイスターであると漏らすアレルヤは、ミス・スメラギがこの場にいたら絞首刑ものだろう。

知らないって恐ろしい。

「デイジーさん、ティエリアは?あ、車で送ってくれるって?ありがとう、デイジーさん」
こうして、ティエリアは遭難することもなくデイジーさんの車に送られて、ロッジまで帰ってきた。
「これ、君にだそうだ」
「わあ、新作の絵本。ちゃんとサインつき。流石デイジーさん」
「あと、いろいろお菓子をもらった。全く、君ときたらいくら友人の家だからといって、無断で電源を拝借するような真似は、今後しないように」
「分かったよ、ティエリア」
もしも、デイジーさんにCBのメンバーであると話していることがティエリアにばれたら、ティエリアは問答無用で銃をぶっぱなしてくるに違いない。
「どうした、アレルヤ。顔色が悪いぞ?」

刹那が、デイジーさんからもらったお菓子を食べながら、アレルヤを伺う。
「ううん、なんでもないんだ。せっかくの友人に会えそうだったのに、会えなくて残念だなって」
アレルヤはだらだら汗をかきながら、手を振った。
「じゃあ、僕は隣のロッジだから。先に戻ってるね」
「俺も、そうする」
刹那もアレルヤの後をついていく。
今日は初日からはしゃぎすぎて、もう夜のいい時間だ。食料はシェフがわざわざ近くのホテルから届けてくれる。ちなみに、レンジで解凍しなければならない。
シェフも意地があるのか、コック姿のまま届けてくる。
それを受け取って、レンジにかけてティエリアとロックオンは簡素な食事をとった。




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