ナイトメア







「アニュー!!」
ライルは飛び起きた。
とても嫌な夢をみた。アニューが裏切り者で、このトレミーがのっとられる夢。そして、アニューと宇宙を舞台に戦闘をして、アニューに粒子ビームの引き金を向ける夢。

「どうしたの、ライル?」

心配そうに、横に寝ていたアニューがライルの頬を撫でる。

「いや、なんでもないんだ・・・・お前は、俺が守るから」

「ライル・・・愛しているわ」
「俺も、アニューを愛している」
その日は、そのまま何事もなく過ぎていった。

次の日になって、ティエリアに呼ばれた。
「アニューに、あげるといい。僕はもう一つもっているから・・・・」
「いいのか?こんな高価そうなもの」
「構わないさ。もともとニールが僕のために買ってくれたものだ。こんな戦闘状況では、アクセサリーなど買いに地球に降りれないからな」
「ありがとう。言葉に甘えるぜ」

ライルの手には、ティエリアがよくしている忘れな草のブルーサファイアの最高級のほうの髪飾り。

「アニュー」
「なぁに、ライル?」
アニューは水色の髪をふわりと宙に浮かせて振り向く。
「これ、やるよ」
「まぁ、綺麗。でも、これたしかティエリアのじゃ・・・」
「ティエリアが、お前にって。俺がもらって、俺がアニューにあげたいと思った。貰い物で悪いんだけど・・・本当は、地球に降りて買いに行きたいんだけどな。こんな戦闘ばっかり続く状態じゃそれもできないから」
「ありがとう、嬉しいわ」
「かしてみろ」
「はい」

アニューの髪に、深い蒼の忘れな草の髪飾りはよく似合った。
「元が美人だから、似合って当たり前だな」
「まぁ、ライルったら、褒めすぎよ」

二人は、限られた時間、愛の軌跡を真っ白なキャンバスに描く。
それを、ティエリアが哀しそうな目で見つめていた。

果たして、この二人の結末は、幸福か、それとも破滅か。

「私は、一体どうして・・・うう・・・・・」
部屋に勝手に入ってきたティエリアの目の前で、目を金色に輝かせたアニューが苦しんでいる。
それに、助け舟は出さない。
だって、彼女はイノベイターだから。
まだ、ティエリアのように人間として、イノベイターであることを捨て、人間の中で生きるかどうか決めていない。
それを決めるのはアニュー自身か、それとも運命か。

二人の愛の結末を、ティエリアは静かに見守る。
「ティエリア?どうして・・・・・泣いているの?」
「どうか、願わくば二人の愛の結末に幸福を・・・・誰かを喪う痛みなんて、僕だけでいい」
ティエリアはアニューを抱き寄せて、静かに涙を零した。
何度もアニューの髪を撫でる。

まるで、本当の天使。

アニューの髪にも、ティエリアの髪にも忘れな草の髪飾りがしてあった。
アニューはティエリアのような類まれなる美貌はなかったが、華やかさはないが、おっとりとした清楚をたたえた美人だ。


どうか、私を忘れないで下さい。
愛している。
この想いは、真実だから。

まるで、祈るように。

ナイトメアがこないことを、祈ることしか、ティエリアにはできなかった。
だって、ティエリアは本当の天使じゃなくって、イノベイターでもなくって、ただの一人の人間だから。

二人の愛の結末を、ただ静かに見守る。