「沙慈・・・・」 確かに、彼の思いは伝わった。 沙慈は、CBの関係者でもなく、自分を偽っていたわけではなかった。 できることなら、アロウズの軍服を脱いで今すぐ沙慈の胸に飛び込みたかった。 でも、それができない。 断ち切ることのできない思い。 私は、変わったのだ。 家族の仇をうつために、CBを駆逐するために、世界統一のために。 過去に縛られてばかりで、何ができるというのだ。 沙慈の胸に飛び込んだからといって、何が戻ってくるというのだ。 愛?そんな不確かなもの、いらない。 いらない。 ダンと、ロッカーを叩きつけるルイス。 その右手には、移植した腕と指には沙慈が買ってくれた指輪が光っていた。 指輪。 沙慈のことも憎んで、写真のデータも全て削除したのに、どうしてもそれだけは身につけたままだった。その指輪を捨ててしまえば、私が私でなくなってしまう気がしたから。 「沙慈・・・・愛って、残酷ね?」 もう五年だった。あれから五年だ。 やり直すにしては、時間がたちすぎたのだ。 「沙慈・・・・思いは、届いたから。でも、私だって断ち切れないものがある。家族のかたき・・・」 ギリッと、ルイルは歯軋りする。 「ルイス。愛しているから。取り戻すから」 そんな沙慈を、最近は一番毛嫌いしていたティエリアでさえ、一人前だと認めるようになっていた。普通に会話だってする。 「沙慈・クロスロード」 「はい!」 ティエリアに呼ばれ、沙慈の顔に緊張が浮かぶ。まだ、頬を張られるのはでないかと心のどこかで思っているのだ。 だが、ティエリアは天使のような微笑を返すだけだった。 「人間として、成長したな。立派だ。もう、君を卑怯者だと詰るものはどこにもいない」 「ティエリア・・・さん?」 「ティエリアでいい」 「はぁ」 「刹那が呼んでいたぞ。一緒に、大切な人を取り戻すんだろう?」 「ルイスを。必ず、取り戻してみせます」 「その調子だ・・・・君は、僕のような道を歩むな」 「え?」 「僕の恋人は、五年前に戦死した。彼女を残しておいていくな。彼女を死なせるな」 ティエリアが、哀しい笑顔を零す。 「ティエリア?」 「刹那」 ティエリアと刹那は、比翼の鳥のように寄り添いあう。 ティエリアは男性と聞かされていたが、キスをしている場面も目撃したし、失礼だが大浴場で遭遇してしまったときもあって、胸があるところをばっちり見てしまった。ティエリアは女性だ。 こんなにも強い女性がいるなんてと、沙慈は思った。 少し、沙慈の解釈は間違っていたが、無性の女性化など、似たような存在だろう。 「一緒に、ルイスを取り戻そう」 差し伸べられる、刹那の手。 もう、戦わないと逃げ出さない。 「僕は、ルイスを取り戻すために戦う」 しっかりと、握り締める。 それを、ティエリアは微笑ましく見守っていた。 |