19話補完小説「断ち切れない」







「沙慈・・・・」
確かに、彼の思いは伝わった。
沙慈は、CBの関係者でもなく、自分を偽っていたわけではなかった。

できることなら、アロウズの軍服を脱いで今すぐ沙慈の胸に飛び込みたかった。
でも、それができない。

断ち切ることのできない思い。

私は、変わったのだ。

家族の仇をうつために、CBを駆逐するために、世界統一のために。

過去に縛られてばかりで、何ができるというのだ。

沙慈の胸に飛び込んだからといって、何が戻ってくるというのだ。

愛?そんな不確かなもの、いらない。

いらない。

ダンと、ロッカーを叩きつけるルイス。

その右手には、移植した腕と指には沙慈が買ってくれた指輪が光っていた。

指輪。

沙慈のことも憎んで、写真のデータも全て削除したのに、どうしてもそれだけは身につけたままだった。その指輪を捨ててしまえば、私が私でなくなってしまう気がしたから。

「沙慈・・・・愛って、残酷ね?」

もう五年だった。あれから五年だ。
やり直すにしては、時間がたちすぎたのだ。

「沙慈・・・・思いは、届いたから。でも、私だって断ち切れないものがある。家族のかたき・・・」

ギリッと、ルイルは歯軋りする。



「ルイス。愛しているから。取り戻すから」

そんな沙慈を、最近は一番毛嫌いしていたティエリアでさえ、一人前だと認めるようになっていた。普通に会話だってする。

「沙慈・クロスロード」

「はい!」

ティエリアに呼ばれ、沙慈の顔に緊張が浮かぶ。まだ、頬を張られるのはでないかと心のどこかで思っているのだ。

だが、ティエリアは天使のような微笑を返すだけだった。

「人間として、成長したな。立派だ。もう、君を卑怯者だと詰るものはどこにもいない」

「ティエリア・・・さん?」

「ティエリアでいい」

「はぁ」

「刹那が呼んでいたぞ。一緒に、大切な人を取り戻すんだろう?」

「ルイスを。必ず、取り戻してみせます」

「その調子だ・・・・君は、僕のような道を歩むな」

「え?」

「僕の恋人は、五年前に戦死した。彼女を残しておいていくな。彼女を死なせるな」

ティエリアが、哀しい笑顔を零す。

「ティエリア?」

「刹那」

ティエリアと刹那は、比翼の鳥のように寄り添いあう。
ティエリアは男性と聞かされていたが、キスをしている場面も目撃したし、失礼だが大浴場で遭遇してしまったときもあって、胸があるところをばっちり見てしまった。ティエリアは女性だ。
こんなにも強い女性がいるなんてと、沙慈は思った。

少し、沙慈の解釈は間違っていたが、無性の女性化など、似たような存在だろう。

「一緒に、ルイスを取り戻そう」

差し伸べられる、刹那の手。

もう、戦わないと逃げ出さない。

「僕は、ルイスを取り戻すために戦う」

しっかりと、握り締める。

それを、ティエリアは微笑ましく見守っていた。