タイムリミット







差し伸べられる手。

いつものように握りしめる手は、白く美しい。桜色の爪は長く伸ばされ、凶器にもなるように尖るように磨かれており、ツヤをだすようにも磨いている。

女じゃないのに。

今は黒いマニキュアで手足の爪は塗られ、そこに星や月のネイルアートが施されている。
フェルトがしたいというから、好きにさせたのだ。

落とすこともなく、そのままにして何日になるだろう。他のクルーは何も言わなかった。

彼の伴侶として生きていた私は、女性化が進んで体の構造も初期に比べると大分変わった。

自分でも驚くくらい、涙脆くなったと思う。


気づくと、タイムリミットまであと少しになっていた。

「行かないでください」

縋りつくように、その広い背中を抱きしめる。

何度願っても、現実は同じなのに。

「お願いだから、行かないで。もう少しここにいて」

「フェルトにされたのか。手足の爪・・・」

「そうです。滑稽でしょう?女でもないのに・・・・」

「男でもないだろう?無性だし、別にいいんじゃないか」

彼は、エメラルドの瞳でじっと私を見つめる。優しく頬と頭を撫でてくれる。その感触に、泣きたくなった。

「タイムリミットだ」

哀しく微笑んで、薄れていく。空気に溶けていく。

「ロックオン!」

愛しい人の名前を口にする。

彼は、半分私が殺したようなものだ。

時が戻るというのなら、幸せだったあの頃に戻りたい。

でも、それは許されない。

私は目覚める。

見慣れた天井。少しボサボサになった紫紺の髪をバレッタでとめる。

愛する彼に買ってもらったもの。

「夢の中でさえ、あなたは消えてしまう」

せめて、夢の中だけでも愛することができたらいいのにと思う。

黒い繊細なネイルアートがほどこされた手足の爪を見る。

ばからしくなって、綺麗に消した。

見てくれる人は、もういないのだ。

そう、この世界には。


タイムリミット。

夢の中でさえ、時間に支配される

「トレミー、南西にこのまま前進!指揮は今日もこのティエリア・アーデがとります。異論があるという方はどうぞ」

たった一人で、CBを再建して歩き出す。生き残ったクルーたちと新しい仲間がついてきてくれた。

「異論がないようなので、ティエリア・アーデを本日をもってして、この艦のマスターとします。以後、私の指示に従ってください」

トレミーのクルーたちが頷く。

「がんばりすぎじゃない?ティエリア」

フェルトが声をかけてくる。それに首を振る。

「リーダーとなれる素質をもっているのは、私しかいないと思う。私は、歩んでいく。あの人の分まで」

「ティエリア・・・・」

そうだ。

私は歩んでいく。

そこにタイムリミットはない。

時間を、無限に歩んでいくのだ。

あの人の分まで。