伝統300百年というゆかりある、その店を夜に貸し切った。 満月に照らされて、リーンリーンと鈴虫がないている。 銀色の光に照らされて、ティエリアとロックオンは日本庭園を並んで歩いていた。 少し肌寒い気がして、ロックオンは着ていた上着をティエリアの肩にかける。 ティエリアは月光のような笑顔で、返してくれる。 「ありがとうございます。せっかく貸しきってくださったのにすみません。僕、どうにも生の魚とかだめで・・・日本食はあまりむいていないようです」 出されたのは日本食だったが、ティエリアは特別に洋食を出してもらった。 生の魚などがおおい日本食を、ティエリアは嫌う。生はだめだった。一度食べたことがあるが、その味にティエリアは固まった。 まぁ、日本食はダイエットフーズとして世界に浸透しており、今日出されたような豪華なものが日本食として定着しているのではなく、肉のかわりに豆腐や味噌といったものが日本食として有名だ。 リーンリーン。虫の音に耳を済ませる。 川のような流れになっている水場には、高そうな錦鯉が何匹も泳ぎパシャンと時折水音を跳ねさせる。 風情あふれる景色の橋の上で、刹那は釣り糸をたれさせていた。 「お、かかった!」 「かかったじゃありません、この子は!ここの錦鯉はどれも百万以上するんだぞ!」 ロックオンがどこからかハリセンをとりだして、店に無断でつりをしていた刹那の頭をはたいた。 ぜーはー。 本当なら二人きりできたかったのだが、刹那とアレルヤがブーイングをしたので、マイスター四人でまとめてくることになった。せっかく貸切できたのだし、そのほうがいいだろうと思ったのだが、やっぱりつれてくるんじゃなかった。 釣り糸にかかった錦鯉を、池に戻す。 あああ、店に知られたらどんなに恐ろしいか。 貸しきりでよかった・・・。 「ほーらほらエサだよ〜」 アレルヤは、橋の上から錦鯉にエサをやっている。 我先にと跳ねる錦鯉の色鮮やさに、アレルヤも目を奪われている。 「綺麗な魚だなぁ。何百万円もするってなんとなくわかる。色がくっきりと・・・黄金の錦鯉もいるや。ハレルヤの色だぁ・・・・・ぶはっ!?」 池の上流から、ジャボテンダーさんが錦鯉に囲まれながら流れてきた。 「あひゃひゃひゃひゃ!!」 アレルヤはスイッチが入ったのか、壊れたように橋の上で、地面をバンバン叩き、笑っている。 「ジャボテンダーさん・・・・・誰だ、僕のジャボテンダーさんを錦鯉の池に放流したのは!」 放流って・・・生きてませんから、ジャボテンダーさん。 刹那が、しゅばっと手をあげた。 「刹那・・・・」 ロックオンは、身震いした。ああ、刹那、さようなら。 「グッジョブ、刹那!」 ティエリアはウィンクして、刹那から釣竿を受け取ると、ジャボテンダーを釣ろうとしている。 ティエリアからは、かすかに酒の匂いがした。 「こらぁ、刹那!ティエリアに酒のましたな!」 ロックオンが怒り出す。 なんでばれたのだとばかりに、刹那は不思議そうだ。 「ジャボテンダーさん、君を僕はつりあげてみせる。僕の愛で・・・・」 上流から、もう一つのジャボテンダーが流れてきた。 「ぶはっ!」 浮き輪をつけていた。 ロックオンは、ふきだしてしまった。 刹那は、ティエリアの隣で、釣りの極意を伝授している。 そんなジャボテンダー。 そんなサボテンダー。 錦鯉(数百万クラス)ばかりが泳ぐ池を、ジャボテンダーが2匹ぷかぷか流れている。 「ようは、俺はガンダムだ!と思い込めればつれる」 「そうか。僕はバーチェだ!」 「その調子だ」 年少組の思考はガンダムアホだ。 ティエリアが、釣り糸をたらす。 大きな特別製の針があって、ジャボテンダーがひっかかった。そのタイミングを見計らって、ティエリアはつりあげる。 ジャボテンダー、ティエリアにつられる。 「ああ、愛しのジャボテンダーさん・・・・水をすって重くなりすぎです」 ジャボテンダーに抱きつこうとするのを、水に濡れるので、ロックオンが制した。 「乾かしてもらいにいってくるから。大人しくしとけよ?」 ティエリアのジャボテンダーを抱えて、ロックオンは店に戻っていった。 キラン。 刹那の目が光る。 帰ってきたロックオンが見たものは、でっかいばけつに泳ぐ錦鯉数匹と、釣りを続ける刹那、池を泳ぐハレルヤ(寒中水泳か、しかも人格が交代してる。池は十分な深さがあるので泳げた)、それにばけつの中の錦鯉にエサをやるティエリアだった。 ちなみにもう一匹のジャボテンダーは、刹那のもので、浮き輪をつけたままプカプカ池を一周してはまた流れて・・・。 「やっぱ、つれてくるんじゃなかった」 ロックオンが、がっくりと肩を落とすのであった。 ティエリアは、とても楽しそうだったが。刹那もアレルヤも。 無論店側にばれて、とても怒られた。 損害賠償を請求されないだけでも、まだましだったかもしれない。 こうして、ロックオンはなじみの日本料亭を二度と利用できないようになったのであった。 |