カンカンカン。 踏み切りで電車が過ぎるのを待つ。 田舎にいけば、未だに昔の風景を残す町並み。 「ティエリア。いいの?こんなにも長い間トレミーをあけて・・・・」 ヴェーダを経由して入ってきたロックオンの人格と記憶を垣間見てしまったリジェネも変わった。 「もう一度・・・あの声で・・・私を、呼んでください」 「愛してるぜ、ティエリア」 こんな結末でも、つかの間の間リジェネはティエリアを手に入れた。 ティエリアは、随分消耗していて、リジェネのところにきたときは体温が30度をきっていて、生命維持ラインのギリギリだった。 「愛しています。ロックオン」 「俺も愛してるよ、ティエリア」 ロックオンの声で囁いて、優しくベッドに倒れこんだティエリアを看病する。 「どうして。君は、こんな真似を・・・・」 「君に、少しでも気に入られたいから」 石榴色の瞳が交差しあう。 「僕は、本物のロックオンを愛している。まやかしは、いらない」 「じゃあ、なんで僕のところにきたのさ?」 沈黙。 「君はずるい。あの人の記憶さえもっているというのか」 「ティエリアには、絶対に中身を見せてあげない」 「なぜ!」 子供のように無邪気に舌を出すリジェネ。 見せられるものか。 ロックオンという人間が描いた、この果てしもなく闇で塗りつぶされた記憶を。ただ、ティエリアと接している部分だけに色が残っていた。 「体調が戻ったら・・・・トレミーに戻る・・・・」 苦しげにあえぐティエリアに、リジェネはペットボトルの水を口にいれると、口移しで飲ませた。 「いいから。今は何も考えず、おやすみ、ティエリア」 「もう一度。あの人の声が聞きたい・・・」 伸ばされる手をしっかりと握り締める。 「おれは、いつでもお前を見守っているぜ。安心しろ、ティエリア」 「はい、ロックオン・・・」 リジェネは、所詮ロックオンにどう足掻いても勝てないのだ。 でも、ティエリアからロックオンに関する記憶を消去してしまえば、ティエリアは壊れてしまうかもしれない。 「愛している、から」 ロックオンの声で愛を囁く。 必ず、それにはティエリアが答えてくれるから。 リジェネの愛には、答えてはくれない。 涙を流さないリジェネのかわりに、ふわふわと天使の涙が凍った雪がふってくるのであった。 |